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「Kickstarter出版」 の評価と可能性:1億ドルの実績

ニューズウィーク日本版 / 2017年2月17日 17時45分

Kickstarter を使う場合は、ほとんど印刷本の出版が前提となり、編集・制作にもお金が懸けられる。あるいはそれをセールスポイントにして基金を募ることになる。マーケティングにも手を回せるので、書店での販売にも力を入れることが出来る。出版ビジネスのベテランで"Kickstarter出版"を指導しているマーゴット・アトウェル (Margot Atwell)は、これが「編集者、出版社、パブリシスト」を置換えるものではなく、たんに著者や出版社が彼らの本について読者に伝える機会を増やすものだ。」と控え目に述べている。しかし、1億ドルという実績は、これを出版プラットフォームと勘違いさせるほどの実績だ。出版ビジネスに与えた影響は少なくない。



Kickstarter の本質は「ソーシャル出版」によるリスク低減であり、出版ビジネスにとっては歴史的になじみの深い「予約出版」にあるとすれば、その成功は出版ビジネスにも影響を与えずにはおかない。しかしコトはそう簡単ではない。20世紀の出版は、むしろ独自の金融機能を強める方向で発展してきたからだ。

予約出版とソーシャル

かの「百科全書」が予約出版で発行されたことはよく知られている。日本でも明治期から活発になったが、それは「版」の製造に関わるリスクをヘッジするためのものだった(著者の生活費などは、もとより考慮されていない)。予約出版は出版社に余裕がないことを暴露するようなもので、じっさい出版の約束を守らないケースも多かったのでイメージを落とした。日本では資金調達よりも大型企画のマーケティング手段として例外的に使われている。出版の社会性を訴求してビジネスのリスクをヘッジするということは、そう簡単ではない。「社会」の密度と成熟度が問われるからである。

出版社は歴史的に「版」の制作をめぐる事業で、当初は印刷業と結びついていた。出版、印刷、書店の3つを兼営する形態も20世紀前半までは珍しくなかった。コストは印刷が重く、流通がそれに次ぎ、執筆や編集にどの程度のお金を懸けられるかは、成功の見込みにかかっている。実績がない場合はギャンブルということだ。実際、新刊書が採算点を超えられる確率は驚くほど低い。出版社はリスク回避のために知名度の低い著者を敬遠する。同じ「版」からいくら稼ぎだすことができるかが「版(権)ビジネス」のコアだが、それは版をめぐる金融で機能する。

デジタルによって「版」をめぐるコスト構造と関係が一変したはずだが、紙を優先する在来出版社には意識されていない。むしろリスクにはより厳しく、つまり企画には保守的になって、著者たちとの乖離は大きくなった。制作費が軽くなっても、成功に要する販促費用はより重くなっているからだ。

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