イエメン戦死者と妻を責任逃れに利用したトランプ演説
ニューズウィーク日本版 / 2017年3月2日 20時40分
トランプが議会演説でライアンの戦死をどう利用したか見てみよう。
幸いなことに我々は、今夜ここにキャリン・オーエンズを迎えている。亡くなった米海軍特殊部隊のライアンことウィリアム・オーエンズ上級上等兵の夫人だ。ライアンは彼の生き様そのままに亡くなった。戦士として英雄として――テロと戦い、我々の国を守るために。
私はさきほど我らが偉大な(ジェームズ・)マティス将軍(国防長官)と話をした。彼が再確認したことをここで伝えたい。「ライアンが加わった急襲作戦は大きな成果を上げ、将来多くの勝利につながる重要な情報を大量にもたらした」──将軍はそう言った。ライアンの遺産は永遠に歴史に刻まれる。ありがとう、ありがとう。
(2分を超えるスタンディング・オベーション)
ライアンはいま天国から私たちを見守っている。彼が(拍手の)新記録を作ったのを見て、とても幸福に感じているはずだ。
巧妙なイエメン外し
見事なのは、ライアンが戦死したイエメンという国名に一度も触れなかったことだ。子どもも含む民間人に多数の犠牲が出たことにも触れなかった。トランプに言わせると、アメリカ人が知るべきなのは、尊い軍事作戦中に米軍の兵士が死亡した事実だけ。作戦のための情報や準備、地上支援が十分だったか、そもそもリスクを上回る成果が期待できる作戦だったのか、といった疑問など考慮に値しない、と言わんばかりだ。
ジェームズ・マティス国防長官から聞いたという話を、演説でそのまま引用したトランプの意図も一考に値する。マティスは2013年3月に退役したのに、いまだに「マティス将軍」と呼んでいる。トランプは、自分の補佐官や閣僚を軍人時代の階級で呼ぶ。これは部下の経歴にかこつけて、自分の政策に対する批判を交わすトランプの常套手段だ。
さらに困惑するのは、演説の2日前にショーン・スパイサー大統領報道官が「(イエメンでの)作戦は新たな襲撃やアメリカ本土への攻撃を防ぐのに見事に成功した」と断言したことだ。アメリカ本土に対するどんな脅威や攻撃の企てがあったのか、誰も知らない。
最終的に、この日の議会演説から人々の記憶に刻まれるのは、戦死したオーウェンズの妻キャリン・オーウェンズに向けられたスタンディングオベーションだろう。あの場面はオーウェンズの死以外のもう1つの悲劇を象徴している。あの2分間は、米議会がイエメンに費やした最も長い時間だったのだ。米軍は2002年11月にイエメンで初のドローン攻撃を実施して以降、2015年3月までに157回の空爆を行った。それ以後も、サウジアラビア主導の連合軍に対する空爆支援を続けているのだ。
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