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全人代、党大会控え人心安定優先――習政権の苦渋にじむ

ニューズウィーク日本版 / 2017年3月6日 22時30分

しかし推進すれば必ず解雇された労働者からの不満が爆発し、これもまた一党支配体制を崩壊させるきっかけを導きかねない。

「長征」精神に学ぼう!――苦労に耐えるのだ!

ならば、どうすればいいのか?

苦労に耐えるのだ!

1970年代末から一人っ子政策が始まっているので、辛抱ができない、わがままな若者が増えている。彼らには毛沢東が行なった「長征」の過酷な経験を知らせ、その過酷な経験にもめげずに耐え抜いた当時の中国共産党軍(紅軍)の精神を学ばせる。「偉大な革命のために――!」

だからいま、習近平国家主席は毛沢東回帰をし、長征映画やテレビドラマを強制的に放映し、教育機関でも「長征精神」を叩きこんでいる。

いかに毛沢東が偉大であったか、いかに勇敢に抗日戦争を戦ったか。だから、国民党軍から逃げるために徒歩で北西にある延安にたどり着いた長征を、中国では「北上抗日」と呼んでいる(それがいかに偽りであるかは拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』に、詳細に書いてある。中共軍が逃げた先の延安には、日本軍はいない)。

習近平国家主席への個人崇拝と抗日神話は、このために必要なのである。

習近平への「一強」を、権力闘争などと、現実離れしたことを言っている研究者やメディアは、中国の真実を見る目を日本人から奪っていると言っていいだろう。

また、李克強が報告で何回「習近平を核心と言ったか」を数え上げて「一強」の証拠などと報道しているメディアは、日本人の中国観を誤導しているとしか言いようがない。



2016年19月28日のコラム<六中全会、集団指導体制堅持を再確認――「核心」は特別の言葉ではない>にも書いたように、胡錦濤元国家主席(総書記、中央軍事委員会主席)も、「核心」と定義づけられていた。しかし江沢民が大きく宣伝するのを許さなかっただけだ。胡錦濤政権時代の「チャイナ・ナイン」は胡錦濤は3人、江沢民派6人で激しい権力闘争があり、多数決議決で負けるので政治は「中南海を出ない」状況にあった。しかし習近平政権の「チャイナ・セブン」においては、ほとんど全員が習近平を支援していた。多数決議決は習近平の思うままだ。なぜ権力闘争をしなければならないのか。論理的整合性がない。

トランプ政権に代わってグローバル経済を牽引

3月5日の政府活動報告で、李克強国務院総理は「反グローバル化、保護主義」に反対すると語気を強めて強調し、暗にトランプ政権の経済貿易政策を批難した。中国こそが世界経済成長の原動力の一つで、世界経済成長に対する貢献度は30%に達するとした。これは中国共産党機関紙「人民日報」の機関紙「人民網」も早くから報道していた。その意味でトランプ政権のTPP撤退などを受け、中国はより強く「一帯一路」やRCEP(東アジア地域包括的経済連携)を主導することにより、中国こそはグローバル経済を牽引することをアピールした格好になる。

とは言え、すべてが習近平政権が追い込まれた窮地の裏返しであることが見えた全人代開幕だった。

[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)



※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

≪この筆者の記事一覧はこちら≫

遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)


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