「トランプ自体がリスク」という株式市場の警戒感 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2017年3月23日 16時50分
<昨年のトランプ当選以降、これまで好調に推移してきた株価は、トランプ政権が潜在的に抱えるリスク要因が表面化したことで一気に株安に転じた>
昨年10月頃、依然として大統領選ではヒラリーが優勢だと誰もが信じていた時期に、「それでも万が一トランプが当選したら世界同時株安になる」ということが、まことしやかに語られていました。ところが、実際にトランプが当選してみると、株安にはならなかったのです。
何よりも、昨年11月9日未明のトランプの勝利演説は立派だった、つまり選挙戦を通じて露骨なまでに繰り広げられていた「暴言作戦」は影をひそめ、「対立の傷を癒そう」という非常に前向きなメッセージが好感を持たれたからでした。「暴言と感情論の誘導」という政治ではなく、実務的でしかもビジネス・フレンドリーな政治が行われるのであれば「これは買いだ」、市場にはそんな判断があったのです。
その「トランプ株高」は、年明けもずっと続きました。下げるきっかけになりそうな局面はあったのです。例えば1月20日の就任演説では、選挙の勝利宣言とは対極的な「一方的なアメリカ第一主義」のようなトーンの演説となりましたが、この時には市場は反応しませんでした。
【参考記事】トランプとロシア連携?──FBI長官が「捜査中」と認めた公聴会の闇
もう一つは、3月15日の連銀の利上げです。この時は、イエレン議長としては思い切って「0.5%」上げというサプライズをやって、株高に一気に水を差し、そこでトランプ政権の勢いを止めるような「政治的判断」もやろうと思えばできたのですが、そこは世界経済に大きな責任を持っている連銀で、「0.25%」という市場の合意にキチンと従った判断をしたのです。結果的に株価は堅調に推移しました。
そんな中で、市場には不思議なセンチメントが生まれました。それは、「調整するチャンスを失った」という感覚であり、同時に「次に『何か』があったら下げる」という暗黙の合意がジワジワと生まれたのでした。
ところでこのトランプ相場ですが、基本的には「トランプ相場」と言っても、その実態は「オバマ相場」で、2009年のどん底から、8年間ずっと「株価と景気の足を引っ張ることはしない」という堅実な忍耐を続けたオバマ政権の政治の蓄積としての「株高」という面があったと思います。その意味では、失業率4.7%という中で消費も堅調だという現状は相当の「底堅さ」を持っているのは事実です。
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