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マニラのスラムでコンドームの付け方さえ知らない人へ

ニューズウィーク日本版 / 2017年3月28日 14時45分

すぐに道の脇に大きなコンクリートの施設が見え、その前に屋根と柱だけがついた横長の集会所らしきものがあるのがわかった。一列に10個ほどプラスチック椅子があり、それが15列はあったろうか。かなりの規模の集会が出来るはずだった。

そこでビニールの解説図を立て、マイクで説明しているのは医院をリキシャで出て行った女性の一人だった。聞き手の住民も30人以上いて、がやがやはしながらも熱心に耳を傾けている。

見れば解説図は男性女性の性器の断面図で、何か女性が説明すると聞き手が間(あい)の手のような言葉を発したり、質問に答えたり、照れたように笑ったりするのだった。



その人の群れに出席表がぐるぐると回っていて、中には白髪のおばあさんもいた。隣にはテーブルがひとつしつらえられていて、どうやらそこで登録をする仕組みになっており、すでに何人かが名前を書き入れていた。

マイクのスタッフはファミリープランニングの重要性を説いた。男女双方にどのような利点があるのか。政府にまかせるだけでなく、自分たちで知ることが必要だと訴えかけると人々は前向きな声を出したが、話が一回の射精につき精子の数がどのくらいかという話になると急に静まり返り、「ミリオン」だと聞くとまたがやがやした。

いかに彼らが教育に飢えていたのかがよくわかった。みなそれを総じて何かを知りたいのであり、むろん自分たちの生活に役立てたいのだった。

集会の横の施設には壁に派手な原色が塗られ、バランガイの数字が描かれ、「デイケアセンター」と飾り文字で書かれていた。中に入れてもらうと、そこにも数人の女性がいて奥に机が二つ置かれ、看護師らしき人がそれぞれ一人ずついて、次々により詳しい説明をしている様子だった。

が、しばらく見ていると番が終わった女性が一人来て、腕をポパイのようにふくらませて見せた。二の腕に包帯をしていた。中に一本、小さなふくらみの筋があるだろうことは、前日リカーンのオフィスで避妊具をあれこれ見せてもらったからわかっていた。つまり彼女は避妊用のインプラントを入れたばかりなのだ。

処置中。

マリーシェルというその女性は38才で、すでに10代後半の長男を含め3人の子供があった。

「七年間、ピルを飲んでたけどとても面倒なの。体調も悪くなるし。インプラントなら無料で入れてくれるって言うし、取り出すのも無料だそうだから」

と彼女は晴々と笑った。ロセルの話だと今回はMSFが資金を出しているが、やがてリカーンの医療がフィリピン政府の健康保健の財源でカバーされるようになればと考えているらしかった。

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