復調のアイルランドは英EU離脱で恩恵を受けるのか?
ニューズウィーク日本版 / 2017年3月30日 6時30分
在英の金融機関はこれまで、いわゆる「パスポート制度」の下、EU全域で商品販売など事業活動が可能だった。ところが、メイ英政権は欧州単一市場、さらには欧州司法裁判所の司法権からの離脱を目指す「ハード・ブレグジット」の方針を明示しており、パスポートの維持はほぼ不可能な情勢となった。EU他国でパスポートを改めて取得するにしても、「1年半程度かかる」(フィッツジェラルド氏)とみられ、金融各社は「移転のシナリオを実際に検討している」(同氏)段階にある。
【参考記事】メイ英首相が選んだ「EU単一市場」脱退──ハードブレグジットといういばらの道
一筋縄ではいかぬ英国との関係
アイルランドと英国は経済的にも歴史的にも、深く複雑な関係にある。それ故に、アイルランドにとって、EU離脱の英国から脱出する国際企業の受け皿となることを手放しで喜ぶわけにはいかないようだ。
英離脱はチャンスなのか、リスクなのか。アイルランドのドノフー公共支出改革相は筆者とのインタビューで、そんな質問に対し、「両方まちまちだ。いくらかチャンスはあるが、多くのリスクもある」などと、慎重な見方に終始した。
何しろ、アイルランドの16年の輸出で英国向けは全体の13%弱で、米国に次ぐ第2位。英国からの輸入は全体の約30%で、トップだった。アイルランド中央銀行はこうした貿易のみならず、両国の労働市場が密接に関係していることや、両国間の国境を越えた投資が盛んなことを踏まえ、英離脱によりアイルランドの国内総生産(GDP)伸び率が17年は0.6%、18年も0.2%下押しされるとの見通しを明らかにした。
さらに、1998年の「グッドフライデー合意」でようやく和平が達成された北アイルランド紛争という「寝た子」を、英のEU離脱が起こしてしまいかねない。国民投票で示された「反移民」の民意をくんで、メイ政権はEUの大原則の一つである「人の移動の自由」を拒み、ハード・ブレグジットの道を選んだ。ところが英領北アイルランドとアイルランドの間には、微妙な境がある。
グッドフライデー合意では、北アイルランド住民の過半数が英国への帰属を望んでいる状況を認める一方、統合はあくまでも住民の自決に基づくとされており、「アイルランド統一という宿願の正当性が確認された」(アイルランド政府公式サイト)。これにより、英国の一部であり続けることを望む「ユニオニスト」と、アイルランド統一を求める「ナショナリスト」は、とりあえず矛を収めた。しかしEUの壁が新たに南北を分断するようならば、途端に情勢は不透明化しかねない。
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