復調のアイルランドは英EU離脱で恩恵を受けるのか?
ニューズウィーク日本版 / 2017年3月30日 6時30分
ドノフー氏は日本貿易振興機構(ジェトロ)本部で行った講演で、英の離脱交渉におけるアイルランドの最優先課題として、経済への影響最小化とともに、北アイルランド和平プロセスの堅持と、南北間の移動の自由確保を挙げた。質疑応答でも、「アイルランドと英国の両政府は、北アイルランドとアイルランド間に新たな(物理的)国境を設けないことを強く約束している」と強調した。
得るのは難し、失うはやすし
英国によるアイルランド植民地化の歴史は、12世紀にまでさかのぼる。南アフリカの悪名高いアパルトヘイト(人種隔離)を想起させるようなカトリック教徒に対する差別を、英国は植民地アイルランドで行ってきた。しかしドノフー氏はインタビューで、そんな恨みつらみや、離脱決定後の英国の混乱を喜ぶ「シャーデンフロイデ(他人の不幸は蜜の味)」をみじんも見せず、「英経済と英国民の繁栄を望んでいる。彼らは最も近い隣人で、友人だ」と語った。
ただ、アイルランドの経済危機を振り返り、危機から得た教訓は何かと尋ねた時のことだ。ドノフー氏はため息交じりに「本当に多くの教訓を得た」としつつ、「日本の読者にも意義深い教訓と言えば、開放性の高い経済にとって競争力は非常に大切だということだ。競争力を獲得するのは難しいが、失うのは極めて簡単だ」と応じた。
この教訓、受け止めるべきは日本人に限らないだろう。経済の開放性を今は誇っているが、巨大な欧州単一市場から去りゆく因縁浅からぬ隣人への、はなむけの言葉としてもふさわしいかもしれない。
[執筆者]
高岡秀一郎(たかおか・しゅういちろう)
時事通信社外経部記者
1998年東京大学教養学部教養学科地域文化研究分科(ドイツ)卒、時事通信社入社。 2006年9月~10年11月までフランクフルト特派員、12年4月~16年5月までロンドン特派員を経て現職
※当記事は時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」からの転載記事です。
高岡秀一郎(時事通信社外経部記者)※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載
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