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マニラのスラムの小さな病院で

ニューズウィーク日本版 / 2017年4月7日 18時0分

「交通費もバカにならないから、ここに来られるのは周辺のスラムに住む人に限られているけど、ここから紹介した病院も無料になりますよ」

とアントニーは英語で付け加えた。つまりまだまだ多くの患者を診察したいし、リカーンとMSFによって無料の医療機関が増えることを願っているのに違いなかった。そしてアントニー自身、ジプニーやトライシクルで通って来ているのだと言った。一日に50人から100人を診ているのだという。


「それから、リカーンが受け入れるのはリプロダクティブ・ヘルスを通して、実は性暴力に傷ついた女性、虐待を受けた子供、そして貧困に苦しむ人々なんです」

核心部分をアントニーはそう話した。"リプロダクティブ・ヘルスに特化していてユニークだ"と初めに言ったその奥に、硬質なリアリティがあるのがわかった。

アントニーはマイノリティからの視線を失わず、自分のあるべき居場所を見つけたのだと思った。

それがリカーンとMSFの営む病院だった。

なぜ彼女たちは通うのか

階下に下り、今度は患者の女性にも話を聞いた。

チャンダ・U・フエンテスというその41歳の女性は「ブルックリン」という文字が大きく描かれたTシャツを着てタオルを首に巻き、髪は茶色に染め、きれいに眉を整えて唇にピンクのリップを塗っていた。そしてファミリープラニングの話を小さな声でする度に、顔を赤らめた。

2013年からIUD(子宮内避妊器具。T字のプラスチックの先にナイロンの糸のようなものが付いていて、子宮に入れておくことで受精卵の着床を防ぐ)を入れていたが、建設業を営む夫がニュージーランドへ働きに出たため避妊が要らなくなり除去。しかし一ヶ月後に帰って来るのでもう一度入れてもらいに来たのだという。ピルは体に合わないので前と同じIUDを希望しているのだそうだった。



すでに3人の子供がいて全員が男の子、上はもう18歳で下が5歳、もうそれ以上に子供は産みたくないし、育てることも出来ない。

これはあとでもまた書こうと思うが、こういう時にフィリピン男性は避妊を"男らしくない"と考えがちなのだと言う。それはかつての日本もそうだったから俺にもよくわかった。

だが子供を育てるのを男たちは女性にまかせっきりにしてしまう。おまけに稼ぎもとうてい足りない。結局食べるものを削るのは母親であり、寝る間も惜しんでアルバイトをするのも女性になる。実は俺自身、たった二人兄妹だけれどそれでも小さな頃は母が昼食を抜いていたと大人になってから聞いた。母親は子供の俺たちにその分の食事を与えていたのだった。ひどく痩せていた母の写真を、俺は今でも机の引き出しに入れている。

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