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ハリウッド版『ゴースト・イン・ザ・シェル』に描かれなかったサイボーグの未来

ニューズウィーク日本版 / 2017年4月7日 16時30分

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ただサンダースの映画は、攻殻機動隊の科学技術が人間をどのように変えていくのかという重要な問題を突き詰めていない。重要なキャラクターのほとんどに白人俳優を配役するだけでは満足できないのか、キャラクターを「あなたはあなたが何をなすかで定義される」というアメリカン・アクション・ヒーローを型に当てはめることでカルチャー・アプロプリエーション(文化の盗用)の罪を犯している。原作のキャラクターは、まさにその正反対なのに。

ミラは任務に疑問を抱いて逃避や苦悩を重ねながら上層部と戦う。アクション・ヒーローとは似ても似つかない彼女は、サイボーグとしての存在の中にある意味の断片をつなぎ合わて生きる意味を見出そうともがいている。

映画の中盤で、ミラ自身が本当は何者かを示す記憶の重要部分が示される。また、ある男がマインドジャックされ、実際に送ったことのない人生や存在するはずのない家族などねつ造された記憶の上に作られたアイデンティティーに気づき、崩壊していく姿も描かれる。

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1995年のアニメ映画版は、人はただ記憶によって個人たりえると主張した。実写版はアニメ映画版の筋書きにほぼ従う一方で、異なった解釈をする。個人を定義するのは記憶ではない、とミラは言う。「私たちはまるで記憶が自分を定義するかのように振る舞うが、私たちは私たちが何を成すかで定義される」と訴えている。

原作に忠実ではないし、理解に苦しむ。

人間の意識、人類さえも、本質的には「情報」であるという士郞のもう一つの重要なアイデアも実写版では疎かにされている。アニメ映画版では、意識が機械の体「シェル」を離れ、「万物の一部」になる可能性を描いているが、実写版ではこうした魂同士の融合や魂とインターネットの融合には遠回しに触れるにとどまった。

システムと脳の融合は始っている

現実世界では、ネットワーク化された意識というのはすでに存在している。タッチスクリーンやキーパッド、カメラ、携帯電話、クラウドなどを通して、私たちは政府の調査や管理、広告主などに私生活をさらし、以前にも増して直接かつ即時的に、日々拡大していく社会の輪に参加している。

電脳化の実現も進んでいる。パーキンソン病やうつ病など、脳の病状を軽減する脳インプラントはすでに存在するし、視覚障害や手足の麻痺を電脳でコントロールする研究も進んでいる。一方、脳インプラントを通じた遠隔操作は数種類の動物で実証されている。もし間違った使い方で人間に使われれば、恐ろしいことになるだろう。

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