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『怪談』の小泉八雲が遺していた、生涯唯一の料理書

ニューズウィーク日本版 / 2017年4月13日 11時3分

この本はまた、2017年のいま、おそらく日本で唯一のクレオール料理に関する本だ。『クレオール料理』の抄訳に、ハーンが同じころに出版したクレオールのことわざ集『ゴンボ・ゼブ』から料理に関係あることわざ、さらには当時執筆していた新聞のコラム、本人の手によるカット(版画)を抜粋して加え、1998年に『ラフカディオ・ハーンの料理読本』として出版。このたび、『復刻版 ラフカディオ・ハーンのクレオール料理読本』(河島弘美監修、鈴木あかね訳、CCCメディアハウス)が刊行された。

本書で紹介されている料理やレシピは、ハーンが友人たちの家庭でひとつひとつ教えてもらったものだという。つまり、一般家庭の味がそのまま紹介されているのだ。それと同時に、当時の家庭の台所と、そこで調理する女性たちの様子がうかがえる記述が随所に見られる。



例えば、クレオール名物ザリガニのビスク(スープ)を作るなら、「ザリガニは五〇匹ほどが適当である」。あるいは、「鳩を六羽用意し、翼を胴体に串あるいはひもで固定する」というレシピもある(鳩のパイ)。電化製品などなかった時代の家庭料理とは、かくも豪快だったのだ。

また、ところどころに料理のコツや、素材を選ぶ際のポイントなどが紹介されている点も面白い。きっとハーン自身が、「料理の先生」である主婦たちから教えてもらったのだろう。

 卵を選ぶときは一つ一つを明かりにかざして見ること。新鮮ならば白身が透き通って黄身がくっきり見えるはずだ。ぼんやりとしていたら古い卵である。(113ページより)

意外に参考になる項目や、「とてもおいしいオムレツ」の作り方

130年以上前の料理書だけあって、たしかに現代の一般読者には実用的でない部分もあるが(ザリガニや鳩の扱い方など)、なかには意外なほど参考になる項目もある。

たとえば「獣肉・鳥類・鹿肉料理のためのソース四五種」。ホワイトソースやブラウンソースからトマトソース、レモンソース、オーロラソース、ケイパー(ケッパー)のソース、白いキュウリのソースに、栗のソース......など、あらゆるソースが紹介されているのだ。

1冊の料理書に、これほどの種類のソースが羅列されることは、めったにない。こうした点こそ、クレオールの食文化そのものを伝えるために書かれた本書の特徴だろう。それがかえって実用的に読めるのも、この本の面白さと言えるのかもしれない。

ピクルスの章では、「ピクルスの心得」に始まり、全部で12のレシピが載っている。キュウリのピクルス(ウイスキー漬け)や卵のピクルス、牡蠣のピクルスなど、こちらも興味をそそられるラインナップで、試しに作ってみようかという気分になる(量は加減する必要があるが)。

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