トルコで最も強力な実権型大統領が誕生する意味
ニューズウィーク日本版 / 2017年4月18日 16時50分
2点目に、三権分立よって権力を抑制することよりも大統領に権限を集中させることで、外部勢力の政治への介入を抑制することが念頭に置かれた。トルコは1945年に複数政党制を導入し、民主主義国の道を歩み始めたが、これまでに軍部による2度のクーデタ、2度の書簡によるクーデタ、3度のクーデタ未遂を経験している。特に昨年7月15日の軍部の一部の反乱戦力によるクーデタ未遂事件はエルドアン大統領と彼の出身政党で与党である公正発展党の政策決定者たちに、実権的な大統領制の制度化の必要性を認識させた。
民主主義体制下でも、とりわけ新興民主主義国に区分される国々ではいまだに政権が外部勢力によって打倒されるケースがみられる。今回のトルコの憲法改正のように、三権分立とチェック・アンド・バランスよりも、外部勢力への対応のために権力を集中するという措置は今後、他の新興民主主義国でも採用される可能性もあるだろう。
トルコ政治史における実権的大統領制の意義
それでは次に、トルコ政治史における実権的大統領制について考えてみよう。建国の父であるムスタファ・ケマルは一党独裁期の大統領として新生トルコを牽引した。ムスタファ・ケマルの出身政党である共和人民党の一党独裁であったため、非常に強い権限を有していたが、執政制度は議院内閣制であった。
ケマル以外に強い大統領と言えたのが、1983年から89年まで首相、89年から93年の急死まで大統領を務めたトゥルグット・オザルである。オザルも大統領に選出された89年10月から91年10月まで出身政党の祖国党が与党であったため、権力行使が容易であった。特に1990年8月から91年3月にかけての湾岸危機において、オザルは独断で多国籍軍と協力する方針を固めた(今井宏平『中東秩序をめぐる現代トルコ外交』参照)。しかし、これに対して外務大臣、国防大臣、統合参謀総長が相次いで辞任する事態となった。結局、91年10月に祖国党が野党となり、オザルの権力は低下した。
2014年8月から大統領制に移行するまでのエルドアン大統領も出身政党の公正発展党が単独与党の座を失った2015年6月から11月までの期間を除き、強い権力を保持している。
このように、クーデタ後の軍政期を除き、ケマル、オザル、エルドアンは大統領として強い権限を有していた。しかし、執政制度は議院内閣制であったため、彼らはあくまで「大統領化」した大統領であった。よって、大統領制に基づき、行政権を持つ実権的な大統領となるエルドアンは制度上、最も強力な権力行使が可能となる。
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