トルコで最も強力な実権型大統領が誕生する意味
ニューズウィーク日本版 / 2017年4月18日 16時50分
正当性を高められるかは移行期が鍵
制度上はトルコ共和国史上、最も強い大統領となるエルドアンであるが、政治運営はまた別の次元の話である。予想以上の苦戦を強いられ、僅差で勝利したこともあり、大統領制までの移行期、および大統領制に移行する2019年11月以降、当面は慎重な政治運営を行う可能性もある。強大な権力をいかに自制できるかがエルドアンをはじめ、今後の大統領に求められるだろう。
今後懸念されるのは、大規模テロの発生と、EU諸国との軋轢の深まりである。「イスラーム国(IS)」やクルディスタン労働者党(PKK)とのつながりが疑われる「クルディスタン自由の鷹(TAK)」は、国民投票前のテロは大統領制の実現に利するとして自制していたと見られており、国民投票が終わったことで再び活動を活発化する可能性がある。
また、国民投票のキャンペーンをめぐり、トルコとの関係が悪化したEU諸国は大統領制の実現を快く思っていないのは確かである。
国民投票後にエルドアン大統領が死刑の復活について言及するなど、すでにトルコとEU諸国との間では火花が散っているが、EU諸国はトルコによって難民の流入が防がれていることもあり、緊張が過度に高まるのは避けるだろう。特にEUの盟主であるドイツは9月に選挙を控えており、ナショナリストを刺激しないためにも難民の抑制は不可欠である。
大統領制が正式に施行される2019年11月までの間、国民投票で生じた国内の亀裂、そして欧州との亀裂を修復させ、テロを防ぎ国内の治安を確保することができれば、実権的大統領制の正当性は高まるだろう。
参考文献
・岩崎正洋『比較政治学入門』勁草書房、2015年。
・粕谷裕子『比較政治学』ミネルヴァ書房、2014年。
・建林正彦・曽我謙吾・待鳥聡史『比較政治制度論』有斐閣、2008年。
今井宏平(日本貿易振興機構アジア経済研究所)
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