性科学は1886年に誕生したが、今でもセックスは謎だらけ
ニューズウィーク日本版 / 2017年5月1日 17時10分
科学的なデータを集めるには、研究対象を直接観察するのが一番いい。活動中の対象を眺めるのに勝る方法はないのだ。しかし科学者にとって、だれかのベッドルームを観察するのは、宇宙の天体を眺めるほど簡単ではない。天体は、慎ましくカーテンを閉めたり、観察者に疑いの目を向けたりはしないが、人は、ベッドインの最中に好奇心旺盛な研究者から写真を撮られるなんてごめんこうむりたいと思っている。電波は、目には見えないが、好奇心旺盛な研究者を欺むこうとはしないし、自己欺瞞に陥ることもない。しかし、人間の場合はどちらもありうる。
性行動の直接観察は難しいので、ほとんどの研究者が、アンケート調査でデータを集めている。しかし、無精ひげを生やした大学院生に、「あなたの個人情報が表に出ることは絶対にありません。ご安心ください」などと言われても、「あなたは自分が飼っている犬のシュナウツァーに性的魅力を感じたことがありますか?」といった問いに正直に答えたいだろうか?
【参考記事】セックスロボット:数年以内に「初体験の相手」となるリスク、英科学者が警鐘
性に関するデータ収集が難しいのは、研究の対象が研究されるのを嫌がることだけが原因ではない。世の中には、性の研究に難色を示す団体がたくさんあるのだ。国から資金を得ている研究機関、権利擁護団体、倫理審査委員会、さらには同僚の研究者までが、性的欲望に取り組む勇気ある研究者に対して、あの手この手の圧力をかけてくる。2003年には、ペンシルベニア州選出のパトリック・トーミー上院議員のグループが、ニューイングランドの高齢者の性習慣の調査や、アメリカ先住民のホモセクシュアルとバイセクシュアル(両性愛)の調査など、4件の性関係プロジェクトへの政府補助金の提供を阻もうとした。ラスベガスのネバダ大学の臨床心理学者で、女性の性の世界的権威、マータ・ミーナもこう嘆いている。「心理学の主流分野の同僚たちは、補助金を獲得するときに、基礎研究と称してもいいし、人間の行動に対する理解を深めたいと言っても大丈夫です。でも性の研究者がまとまった補助金を獲得しようと思ったら、研究を健康とか人権に結びつけなければなりません」
多くの団体が性をタブー視したために、性的欲望を解明する研究は頓挫してしまった。実際、クラフト=エビング以降、性嗜好に関する大がかりな調査を実行した研究者は、たった1人、アルフレッド・キンゼイだけだ。キンゼイは、もともとは昆虫学者で、タマバチ研究の専門家だった。赤みがかった小さな昆虫を採集しては、ピンで留め、ひとつひとつに手書きのラベルをつけて標本にした。彼が採集したタマバチは、100万以上にのぼったという。キンゼイ夫人も、彼が標本作りをしていたころは、たまにハチに刺されたら、それが事件になるくらいの平穏な日々を過ごしていたにちがいない。ところが1940年、突如として、キンゼイの興味が昆虫から「性教育」に移った。彼は、迷信だらけで道徳ばかりが強調される1930年代の性教育に嫌気がさしたのだ。性行動の実態に関する科学的データがひとつもないことにも不満だった。そこで彼は、自分でデータを集めることにした。
この記事に関連するニュース
-
「入ることがゴール」と若者が考えてしまう理由 自分が選択した人生をいかに肯定できるか
東洋経済オンライン / 2024年7月18日 13時0分
-
明治学院大学が情報科学融合領域センターを発足 2024年7月26日にキックオフシンポジウムと記念レセプションを開催
@Press / 2024年7月10日 10時0分
-
「20代のほうが50代よりヤバい?」男性更年期を回避するたった一つの「案外と簡単な方法」とは
OTONA SALONE / 2024年7月2日 21時1分
-
60代以降に「週2回セックス」で驚きの効果…和田秀樹「ED治療薬の使用に関して絶対に知っておくべき知識」
プレジデントオンライン / 2024年6月30日 15時15分
-
なぜ人間には「浮気をする人」と「誠実な人」が存在するのか…人間が「完全な一夫一妻制」とは言い切れないワケ
プレジデントオンライン / 2024年6月21日 17時15分
ランキング
-
1キーシン氏を「外国の代理人」指定…「我々はプーチンとその取り巻きより長生きする」とSNS投稿
読売新聞 / 2024年7月20日 17時2分
-
2イスラエルの入植活動は国際法違反、ICJが勧告 イスラエル反発
ロイター / 2024年7月20日 1時26分
-
3バングラデシュ全土に夜間外出禁止令発出へ…政府はネットを遮断、デモ死者105人に
読売新聞 / 2024年7月20日 12時31分
-
4バイデン撤退論が米民主党で急拡大、要求の議員計35人に 本人は選挙戦継続訴える
産経ニュース / 2024年7月20日 8時41分
-
5トランプ氏銃撃、動機は不明 発生1週間、警備当局に批判も
共同通信 / 2024年7月20日 18時47分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)