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欧米で報道されない「シリア空爆」に、アメリカの思惑が見える

ニューズウィーク日本版 / 2017年5月24日 19時0分

一方、ヨルダンで教練を受けた反体制派は、米英軍、さらにはヨルダン軍の地上部隊と密に連携することで勢力を増していった。

最初に登場したのは「新シリア軍」を名乗る武装組織だった。2015年11月に結成されたこの組織は、イスラーム国の勢力拡大を受けてダマスカス郊外県に敗走していたダイル・ザウル県の出身者からなるアサーラ・ワ・タンミヤ運動が中核を担い、ヨルダン領内のルクバーン地区にあるシリア人難民キャンプを拠点に活動した。2016年3月、彼らは、ダマスカスとバグダードを結ぶ国際幹線道路上のタンフ国境通行所をイスラーム国から奪取し、米英両軍は同地を拠点化し、シリア南部でのイスラーム国に対する掃討戦を準備した。



だが「誠実なムジャーヒディーン」との共闘を標榜していた新シリア軍は、アサド政権との戦いで劣勢を強いられるようになったヌスラ戦線やシャーム自由人イスラーム運動との連携の是非をめぐって内部対立をきたし、イスラーム過激派に共鳴するアサーラ・ワ・タンミヤ運動が「方針の違い」を理由に8月に離反したことで衰退した。

2017年に入ると、今度は「ハマード浄化のために我らは馬具を備えし」作戦司令室という名の連合組織が出現した。この組織には、アサーラ・ワ・タンミヤ戦線の系譜を汲む東部獅子軍のほか、アフマド・アブドゥー軍団、カルヤタイン殉教者旅団、革命特殊任務軍、部族自由人軍が参加した。「ハマード」とは、シリア南部、ヨルダン東部、イラク西部にまたがる砂漠地帯の呼称である。

「ハマード浄化のために我らは馬具を備えし」作戦司令室は3月、シリア政府とイスラーム国に挟撃されていたダマスカス郊外県東カラムーン地方の反体制派を解囲するとして、ダマスカス郊外県東部、ヒムス県南東部、スワイダー県北東部に拡がる砂漠地帯に進攻し、イスラーム国を放逐した。そして5月に入ると、革命特殊任務軍が、ダイル・ザウル県南東部のユーフラテス川河畔に位置する国境の町ブーカマール市からイスラーム国を掃討すると主張し、米英ヨルダン軍地上部隊とともにタンフ国境通行所からシリア政府支配地域に向け北進を始めた。

アサド政権はこの動きを容認しなかった。同政権は、シリア領内での米英ヨルダン軍の活動に警戒感を露わにするだけでなく、「ハマード浄化のために我らは馬具を備えし」作戦司令室が掌握するはずだった旧イスラーム国支配地域の多くの地域を手中に収めていった。また、5月中旬になると、シリア軍、共和国護衛隊、ヒズブッラーの武装部隊、イランの支援を受けた民兵を増派し、タンフ国境通行所の北約55キロの地点に位置するザルカ地区(ヒムス県)、南西約130キロの地点に位置する丘陵地ズィラフ・ダム地区(ダマスカス郊外県)を制圧し、これが今回の有志連合の空爆の引き金となったのである。

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