欧米で報道されない「シリア空爆」に、アメリカの思惑が見える
ニューズウィーク日本版 / 2017年5月24日 19時0分
CENTCOMはこの空爆が「親体制部隊」(pro-regime forces)の車列に対する威嚇行為だったと発表した。だが、シリア軍は砂漠地帯の拠点が標的となり、多数の兵士が死傷したと反論、シリア人権監視団も「非シリア国籍の外国人」8人が死亡したと発表した。
新たな段階に入った「テロとの戦い」
4度目となる有志連合の軍事攻撃は、米国の支援を受けたYPGが主導するシリア民主軍によるラッカ市解放が現実を帯びるなか、シリア国内でのイスラーム国に対する「テロとの戦い」が新たな段階に入ったことを示している。
この段階とは、イラク領内のイスラーム国の牙城であるアンバール県に接するダイル・ザウル県の領有権をめぐるアサド政権と米国の妥協なき争奪戦である。2015年11月以降、イスラーム国の包囲に曝されているダイル・ザウル市の解囲と油田地帯を擁する同市周辺地域の奪還は、アレッポ市解放に次ぐアサド政権の悲願だ。一方、ダイル・ザウル県での「テロとの戦い」の主導権を握ることは、ラッカ市解放後の米国が対シリア干渉政策を正当化し、イスラーム国を壊滅に追い込んだ「最強の勝者」であることをアピールするうえで不可欠である。
折しも、「アスタナ会議」として知られる停戦・和平プロセスにおいては、ロシア、トルコ、イランを保障国とするかたちで5月6日に「緊張緩和地帯設置にかかる覚書」が発効した。これにより、シリア国内の停戦は、これら3カ国、なかでもロシアが事実上独断的に監視するところとなり、反体制派の活動は、ヌスラ戦線やシャーム自由人イスラーム運動と共闘しようとしまいと、これまで以上に大きな制約を受けることになった。
こうしたなか、アサド政権との衝突を伴うかたちでしか「テロとの戦い」を継続できない米国および有志連合にとって、「緊張緩和地帯設置にかかる覚書」が定める停戦枠組みと一線を画することが得策だということは言うまでもない。
「ハマード浄化のために我らは馬具を備えし」作戦司令室は5月22日、「自由シリア軍砂漠諸派」の名で声明(第1号声明)を出し、シリア政府の支配下に組み込まれたタンフ国境通行所北西部および南西部の奪還を目的とする「砂漠の火山の戦い」作戦を開始したと発表、イスラーム国ではなくアサド政権との対決姿勢を鮮明化させた。停戦・和平プロセスへのトランプ政権の不関与政策の真の思惑を邪推するなら、それは自らが庇護する反体制派を停戦枠組みの外にとどめ置き、アサド政権と衝突させることで、イスラーム国に対する「テロとの戦い」の主導権を維持することなのかもしれない。
青山弘之(東京外国語大学教授)
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