第四次アニメブームに沸く日本、ネット配信と「中国」が牽引
ニューズウィーク日本版 / 2017年5月30日 17時54分
ところが2010年代に入って中国の状況は一変する。「配信サイトは十分に育った、今度はコンテンツメーカーを保護しなければならない」と中国政府は方針を転換。すると司法がお上に従うお国柄だからということなのだろうか、中国の司法は「避風港原則」を認めず、悪質な行為だとしてサービス事業者に賠償を認めるケースが増えてきた。
いつ消えてしまうかわからない海賊版よりも、ちゃんと見られる正規版のほうが消費者にとっての利便性も高い。かくして中国のネットはいまだに多くの海賊版はあるものの、正規配信が主流へと切り替わっていったのだった。
中国動画配信市場は「バブル」なのか?
世界にアニメファンが増えている、中国が正規配信へ傾き、日本コンテンツを争って買っている。ここまでなら万々歳の話に思えるが、アニメ業界関係者の間にはむしろ今後を恐れるムードが強いという。中国の動画配信サイト業界、アニメブームは一種のバブルであり、いつはじけるかわからないという懸念だ。
実際、中国の動画配信サイト業界は利益を上げられていない。例えば動画配信サイトの雄、愛奇芸の業績報告書によると、2015年の営業収入は53億元(約854億円)だったが、版権代は77億元(約1240億円)に達している。これに別途人件費、運営費がかかるのだから大赤字もいいところである。これでは長続きしないと考えるのも当たり前だろう。
【参考記事】ワンピース、キャプ翼、テトリス、辞書まで映画化!? 中国第3のバブルの実態
しかし、立命館大学映像学部の中村彰憲教授は、利益が上がらないことがそのまま中国動画配信ビジネスの終焉につながるわけではないと指摘する。
「確かに、配信自体の収益化は二次利用やIoTなどとのつながりがない限り難しい」と認めつつも、「そもそもテンセントのような企業は、ユーザー数の拡大、そしてプラットフォーム利用時間の拡大こそが収益の源です。展開する複数事業におけるポートフォリオで考えているため、動画配信単体が赤字かどうかではなく、動画を導線としてさらなるユーザー数及びユーザー時間数の拡大ができるかどうかが課題なのです」
日本ではヤフージャパンや楽天などの巨頭はある程度の棲み分けをしているが、中国では百度、アリババ、テンセントの三大プラットフォーム(三社の頭文字をとってBATと呼ばれる)がそれぞれのプラットフォームを拡大するために、さまざまな分野でしのぎを削っている。このプラットフォーム戦争が続く間は日本メーカーにとっては売り手市場が続くというのが中村教授の読みだ。
中国発のリスクに備えることはもちろん重要だが、たんに怯えるだけではいけない。中国ビジネスがどのようなロジックで回っているのか、その状況を把握しなければ正しく怖がることはできないと言えそうだ。
[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝 』(星海社新書)。
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高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)
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