アフリカ象を横目にして
ニューズウィーク日本版 / 2017年6月27日 15時30分
これは非常に特徴的な事柄なので、俺たちがまたしばらく国立公園地帯を行き、ナイル川を右に見て道路を左に折れ、どこまでもまっすぐ走っていく間に説明しておこう。なにしろ出発から到着まで11時間かかるのだ。
MSF歴の長いドライバー、我らがボサ
前日ジャン=リュックにも聞いていたことだが、ウガンダは難民にとても寛容な政策をとっていて、国に入ってくる人々に土地を与え、耕作することを許可しているのだった。むろんそれだけ広い土地を持っているから出来ることだが、実際に難民たちは小さな家を建て(時にはレンガ、そして時には古くからの泥を固める場合もあるかもしれない)、自分たちの食べる分をまず作ることになる。
農業だけを許しているのかといえば、観察したところではそうではないが、これはまたあとで話すことにする。少しだけ言ってしまうと、人は商品を作り出せば市場を設けるものなのだ。移住区の奥で、俺はまるで人類史を見るような思いを抱いた。
さて、ところがすでに書いたように難民は数か月で85万人に届こうとしている。いくら土地が広くても、現地にいる人口以上になっていけば必ず摩擦は起きてしまう。だから一日二千人の流入は、もうすぐ臨界点を迎える可能性があるとジャン=リュックたち国際援助団体は見ている。
けれど、その前に打てる最善手といえば、流入元である南スーダンの紛争を停止、出来れば解決することであり、そこに関してはMSFが関与不可能な領域ということになる。
空はすっかり晴れ、左右にはどこまでも緑が続き、風は爽やかで道はまっすぐなのだけれど、俺たちが決して気を緩めることが出来ないのはそういう事情を知っているからだった。
やがて、道路上にヒヒの群れがあらわれた。大きな親の近くに子供たちがまとわりついていた。ガゼルのようなものが少し遠くにいたのも覚えている。
そういう時、ボサが必ず、
「アニマル!」
と言って教えてくれた。アニマルとはずいぶん大きなとらえ方だが、彼が指さす彼方にその度に何かがいた。ただしかなり長い時間見つめていないと俺たちにはわからないのだけれど。
そんなやり方でアフリカ象が道路のすぐ脇にいたこともあった。さすがにアフリカの大地は生命の宝庫なのだった。
アニマル!
14時、ようやくアルアという町に着き、店舗や事務所が入った建物の一階にある暗い食堂へ入った。顎をあげて近づくウェイターに、ドライバーは何があるのか聞いた。彼はムスリムで肉を食べないので、マトケという芋に近い味のバナナをすりつぶしたもの、豆、付け合わせに茹でたモロヘイヤとキャベツを乗せた皿を頼んだ。俺はタロイモ的な芋にした。
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