傷ついた人々が95万人──ウガンダの難民キャンプにて
ニューズウィーク日本版 / 2017年7月11日 17時10分
少し話が途切れ、ベラもドゥニも俺も谷口さんも黙った。
いわゆる「天使が通る」と言われる沈黙のあと、ベラがこんなことを言い出した。
「取材は一週間に一度くらいあるんだけど、今日は二度目なの」
俺は直感的に何があったのかわかった。ベラは続けた。
「その人の国では知られた人らしいんだけど」
同じことはハイチの性暴力被害センターでも起きたのだった。俺の前に、俺めいた人間がいるのだ。
ウガンダの奥地で、世界が二重になっている感じにとらわれている俺にかまわず、ベラは言った。
「その人にも言ったんだけど、ここウガンダでも100万人を超えると事態が変わると思う。配給が間に合わなかったり、経済的にもインフレが起きてしまう。そうなるとウガンダが受け入れを継続してくれるかどうか......」
あとわずか5万人だった。
一日に2000人が難民として来ている。
俺がウガンダのリポートを書き終える頃、リミットを越えてしまうのではないか。
危機の感覚が、個人的にも難民を考える上でも俺にあった。
その日、いったん宿舎へ寄り、宿を手配してくれた看護師のジョセフィーヌの案内で真っ暗な道を車で移動して、荒野の中のコンクリート造りの一階建てモーテルのような場所に泊まった。運転手のボサは俺より安い部屋で溜まった水をシャワーにしていた。基本的に電気など使わないし、停電の時間も決まっているのかも知れず、誰もいない食堂だと思っていると暗がりにたくさんのアフリカ人がいてサッカーを観ていたりした。
俺たちはその横のやはり食堂の一部でロウソクの灯の中、決まったメニューとしてディープフライドの牛肉とフライドポテトを食べ、俺はコーラを飲んだ。
蚊取り線香を持参していたので、あとで一人で食堂にライターを貸してもらいに行くと、マッチさえなかった。係の女性が笑いながら俺の蚊取り線香を台所の奥へ持っていき、ずいぶん帰ってこないので興味がわいてきて勝手に中に入ると、床に幾つか穴が開いていてそこの炭に火がついていた。女性はしゃがみ込んでそこから線香に火をつけていた。
真っ暗な平原を横切るようにして、俺は火のついた蚊取り線香を持って井戸の横を歩いた。ふと気づくと闇の中に敷物を広げ、そこで神に祈りを捧げているイスラム教徒がいた。ほとんど見えなかったが、何度も頭を下げているのがわかった。
水が落ちてくる仕掛けの部屋のシャワーを浴び、持っていた手ぬぐいで体を拭き、俺はもう一人の俺のことを考えていた。
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