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北の最高指導者が暗殺されない理由

ニューズウィーク日本版 / 2017年7月21日 18時0分

イラク侵攻の二の舞いに?

だが韓国の特殊部隊が標的の金正恩に近づく道のりは険しい。まず北朝鮮に侵入するのに、米空軍特殊作戦司令部か米陸軍の特殊司令部の精鋭ヘリ部隊である第160航空連隊の力が必要になる。黄海にある韓国と北朝鮮の軍事境界線、北方限界線(NLL)を越えたら、北朝鮮人民軍の第3軍団が海からの侵入者を平壌に入れまいと待ち受けている。

「第3軍団と第4軍団の守りが突破されたら、敵は首都を区画ごとに防衛して時間を稼ぎ、その間に金正恩と護衛司令部が指導部を北朝鮮中北部に移す構えだ」と、北朝鮮軍に詳しいジョセフ・バーミューデスは言う。



米軍特殊部隊は9.11同時多発テロ以降、その手の奇襲攻撃をパキスタンやソマリアやリビアで何度も実施し、逃走中のテロ組織幹部を拘束・殺害してきた。だが、重武装の国家を相手に同じことをやろうとしても勝算はかなり低い。「映画の題材にはいいだろうが、現実には一筋縄ではいかない」と、マクスウェルは言う。

最も現実的なのは、アメリカか韓国が集中砲火を浴びせることかもしれない。昨年9月、北朝鮮による核実験を受けて、韓国は「大量反撃報復」計画を発表。核攻撃の兆候があれば金正恩ら指導部に関係のある区域を弾道ミサイルや巡航ミサイルで壊滅させる構えだ。その4年前には巡航ミサイル「玄武3」などの公開試験を実施。平壌の錦繍山記念宮殿を模した標的にミサイルをぶち込んだ。

しかし指導者のいる場所にたどり着くための情報がなければ、ミサイルも特殊部隊も無意味だ。北朝鮮のような手ごわい標的について、その手の機密情報を入手しようとするのは無謀とも思えるが、韓国側は強気だと、ミドルベリー国際大学院東アジア不拡散プログラムのディレクターであるジェフリー・ルイスは言う。

「本当の意味で成功したためしはないのに、軍や政治の指導者は指導者暗殺作戦に引き寄せられる」

似たような例としてルイスは03年のアメリカによるイラク侵攻を挙げる。米軍は当時スパイからの情報を基に、バンカーバスター(地中貫通爆弾)と巡航ミサイルを搭載したステルス機をサダム・フセインが潜伏していると思われる場所に派遣した。しかし実際には独裁者の姿も幹部用の塹壕も見当たらず、フセインが拘束されたのはそれから8カ月後だった。

仮にアメリカか韓国が金正恩に対する先制攻撃に成功したとしても、北朝鮮は通常兵器を使って韓国と在韓米軍(2万5000人)に壊滅的な打撃を与えることができる。金の死後、北朝鮮人民軍が武装解除に応じるかどうかも定かではない。マティス国防長官はアメリカが北朝鮮との戦争に勝ったとしても「人命被害は朝鮮戦争以降最も深刻になる」はずだと語った。

金正恩が死んでも北朝鮮の問題は終わりはしない。金一族が代々受け継いできたのは政権だけではないからだ。北朝鮮の「王家」は数十年に及ぶ暴政と国民の窮乏という形で北朝鮮社会に深く根を下ろしてきた。

国が今後の紛争の痛手からすぐに立ち直り、よりよい社会を築ける見込みは薄い。結局、北朝鮮の人々は金一族の最後の1人が権力の座を追われた後も、長い間、最高指導者たちの亡霊に苦しめられることになるだろう。

金一族最後の1人の抹殺作戦が血なまぐさいものになるのは必至。だが本当に大変なのはそれからかもしれない。

From Foreign Policy Magazine

[2017.7.18号掲載]
アダム・ロンズリー(ジャーナリスト)


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