家族でなかった者たちが作る家族──ウガンダの難民キャンプにて
ニューズウィーク日本版 / 2017年7月25日 17時15分
<「国境なき医師団」(MSF)を取材する いとうせいこうさんは、ハイチ、ギリシャ、マニラで現場の声を聞き、今度はウガンダを訪れた>
これまでの記事:「いとうせいこう、『国境なき医師団』を見に行く 」
ビディビディのゾーン2から
翌日早朝、平原の向こうから赤い朝日が上がりつつあるのを見ながらフロントあたりへ行ったが、まだそこには固く錠が閉まっていて入れなかった。
そのうち近くから明るい音楽が聴こえ出したので目をこらすと、大樹に隠れて一階建ての教会らしきものがあり、そこでゴスペルめいた曲が歌われているのがわかった。ドライバーのボサはイスラム教徒だし、様々な宗教が入り交じっているのだなと実感していると、そのボサ・スワイブと『国境なき医師団(MSF)』広報の谷口さんもやって来て、タイミングよく食堂が開いた。
焼いていないパンと、合成樹脂製のポットにお湯、インスタントコーヒーの粉が入った瓶、そして妙に平たいオムレツが自動的に運ばれてくる。
ボサに聞けば、ウガンダでは姓と名前の順が日本と同じで、名前だと思っていたスワイブが苗字なのだった。4人の子供がいて、3女1男。レストランで支配人をしている奥さんより早く仕事に出て、早く帰って料理を担当しているのだという。長くMSFで活動しているが、報酬や待遇のことで文句を言う人もいるとボサは言い、しかしMSFへの愛があればすべてはうまく行くのだと強調した。なんだか男女の話みたいだなと俺は思いながら、パンをもぐもぐやった。
2012年にMSFに参加したというロバート・カンシーミというウガンダ人男性がやってきて、約束通り8時に共に出発。まず5分で「薬局」に着き、そこで車を乗り換えてビディビディ居住区まで、途中でマンゴーの樹の下で開かれている青空教会の朝のミサなど見やりながら15分ほど行く。
「ゾーン2」と呼ばれる地域には、例の『国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)』の遮光テントがあちこちにあり、その脇にすでに居住してから時間が経つ人々の土壁とわらぶき屋根の家などが建っていて、隣接した小さな畑が耕されているのもわかった。家を建てるために材木を運んでいる者もいて、まさにそこは居住区としての落ち着きを見せていた。
それぞれの地域にはマーケットエリアがほとんど自然に出来てきて、そこで食物や衣料の売買が行われる。実際、俺たちが移動する車の横には点々と屋台が作られ、品数は少ないながら物が売られていた。人類がどのように定住していったかの見本を目の前に広げられているような気分でもあり、広大な平野で現在も続行している移住実験計画という趣もあった。
この記事に関連するニュース
-
コロンビア:紛争で孤立した地域に医療を──住民と対話しながら、保健医療の普及に挑む
国境なき医師団 / 2024年5月15日 17時18分
-
戦争で壊された心──ウクライナの人びとは「心の問題」にどう向き合っているか
国境なき医師団 / 2024年5月14日 17時44分
-
【動画】「一体いつになれば 人道が尊重されるのか」──EU移民政策の犠牲になる人びと
国境なき医師団 / 2024年5月1日 17時18分
-
ミャンマー:戦闘の激化、病院の閉鎖、ロヒンギャへの迫害──国境なき医師団スタッフが目撃した過酷な実態
国境なき医師団 / 2024年4月30日 17時14分
-
ゴールデンウィークに世界を知る!おすすめ動画5選
国境なき医師団 / 2024年4月26日 17時15分
ランキング
-
1「社会へ強いメッセージを伝える人に与えられる」“建築界のノーベル賞”プリツカー賞授賞式に山本理顕さん出席 日本人9人目の快挙
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年5月19日 11時13分
-
2イスラエル 政権内の亀裂深まる、戦時内閣メンバー・ガンツ前国防相 ネタニヤフ政権に戦闘終結後のガザ統治など行動計画要求「策定しなければ離脱」
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年5月19日 12時27分
-
3ロシア、ハリコフ州でさらに1集落制圧=ウクライナ北東部、1万人避難
時事通信 / 2024年5月19日 8時26分
-
4イスラエル軍、ガザ北部ジャバリヤ侵攻「これまでで最も激しい戦闘」…戦闘員200人殺害と主張
読売新聞 / 2024年5月18日 22時7分
-
5敵前上陸「地上の地獄だった」 対ロシア渡河作戦、兵士ら証言
共同通信 / 2024年5月19日 20時8分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください