孫政才失脚と習近平政権の構造
ニューズウィーク日本版 / 2017年7月26日 16時0分
ところで江沢民が常務委員を2名増やして「9人(チャイナ・ナイン)」とさせた、その2名の職位に注目して頂きたい。
増やした職位は「中央政法委員会書記」と「中央精神文明建設委員会主任」だ。
胡錦濤政権二期目(2007年~2012年)で言うならば、前者は周永康で、後者は李長春である。二つとも、「法輪功対策」に関係した職位なのである。
江沢民は、朱鎔基の警告も聞かずに、法輪功信者の迫害に力を注いできた。
そのために周永康に公安関係の特権を与え迫害を正当化し、反対する者をすべて投獄してきた。法輪功は「精神性」という要素を持っているので、精神文明(イデオロギー)担当を増やし、李長春を当てた。
習近平政権「チャイナ・セブン」の権力構造
2012年11月、第18回党大会の時に、腐敗の温床になっている「中央政法委員会書記」の特権を奪うために、このポジションをチャイナ・ナインから無くし、「チャイナ・セブン」にした。その時点で、「周永康逮捕」は胡錦濤と習近平の間で合意されていた。
重慶市書記だった薄熙来の失脚は2012年3月なので、まだ胡錦濤政権だったが、次期政権は習近平政権になることは既定路線だったので、このとき既にチャイナ・ナインになっていた習近平(国家副主席)は、「薄熙来逮捕」に賛同していたし、薄熙来の後釜に孫政才を送り込むことにも賛同していた。
薄熙来が狙ったのは「習近平の座」だったので、習近平は胡錦濤の決断に感謝した。
一方、胡錦濤は反腐敗運動の指示を出しても江沢民派によって阻止され、10年間、屈辱の政権運営を強いられてきたことに懲りていたので、2012年11月の第18回党大会に於いて、全ての権限を習近平に渡し、その代わりに「反腐敗運動に徹底してくれ」と約束させたのである。
だから2012年11月8日、胡錦濤は中共中央総書記としての最後のスピーチに於いて「腐敗問題を解決しなければ党が滅び、国が滅ぶ」という名文句を残した。
そして新しい総書記に選出された習近平は11月15日、総書記としての最初のスピーチで「腐敗問題を解決しなければ党が滅び、国が滅ぶ」と、胡錦濤とピッタリ同じ言葉を述べて、胡錦濤との約束を果たそうとした。
習近平が反腐敗運動を展開するために有利となる条件でありさえすれば、胡錦濤はすべて譲歩した。それを優先して、チャイナ・セブンを選んだのである。
ただし、チャイナ・ナインにあった「国家副主席」の職位を外し、「精神文明(イデオロギー)」に関する職位を残すことにしている。これは「法輪功問題」のためでなく、「中国共産党の一党支配体制が危うくなっている」ことへの懸念からである。その証拠に、習近平政権になってからの言論弾圧は、尋常ではない。
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