対北朝鮮「戦争」までのタイムテーブル 時間とともに増す「脅威」
ニューズウィーク日本版 / 2017年7月28日 17時45分
期限設定なら衝突危機近づく
いずれにせよ北朝鮮は、体制維持のために最優先している核・ミサイル開発を今後も続けるだろう。それを止める恐らく唯一の手段は、米国が本気で北朝鮮を軍事攻撃するそぶりを見せることだ。北朝鮮の最優先事項が体制維持であれば、北朝鮮は米国との戦争を回避するしかなく、その時になって初めて妥協の可能性が生じる。
しかし、米国はまだまだ状況が煮詰まっていない。報道ではしばしば「核実験やICBM実験が米国のレッドライン」と伝えられているが、米国は一度も「新たな核実験やICBM実験が行われたら北朝鮮を攻撃する」と明言していない。米国が自衛権で攻撃できるとすれば、北朝鮮に実際に攻撃された時点だが、北朝鮮が行っているのはあくまで新兵器開発の「実験」である。
従って、北朝鮮がこのまま核・ミサイルの開発を推し進め、それを制裁などの圧力で阻止できないとなれば、米国は軍事的には在韓米軍の増強や空母部隊の増派などで臨戦態勢を強化するとともに、政治的には少なくとも国際社会である程度の同調を得たうえで、期限を切って北朝鮮に妥協を迫るなどの手順が必要になる。そうした状況に至るまではまだまだ時間がかかるが、このままではいずれそうした本当の危機に向かっていくことにならざるを得ない。軍事衝突の可能性は現時点ではほとんどないが、問題はただ先送りされているだけとも言える。
いや、問題はさらに複雑だ。少なくとも現時点で戦争の可能性がないからといって、単に「良かった」ということではない。時間の経過とともに、北朝鮮はどんどん核爆弾を増やし、ミサイルの数も増やす。もしも将来戦争になった場合、その危険性は後になるほど大きくなるということだ。
それでも、何とか「駆け引き」で戦争が回避されているうちはまだいい。問題は、北朝鮮のような超独裁国家は、未来永劫(えいごう)に安定しているわけではないということだ。ごく少数だけが利益を得る独裁体制は、常に内部からの潜在的な反乱圧力を受ける。もちろん外部から受ける圧力もあるが、いずれにせよ人類の歴史は、次々にさまざまな独裁体制が打倒されてきた歴史でもあった。
単に今現在、政権が崩壊する兆しがうかがえないとしても、北朝鮮の独裁体制はいずれ終焉(しゅうえん)するだろう。その時、これほどの抑圧体制の崩壊となれば、平和的な権力移譲などは可能性が低く、アナーキー状態に陥る可能性が極めて高い。その時が将来になればなるほど、混沌と化する北朝鮮に、より大量で高性能の核ミサイルが放置されることになる。
私たちの前に出現した「北朝鮮の核ミサイル武装」とは、そういう脅威に他ならない。
[執筆者]
黒井文太郎(くろい・ぶんたろう)
ジャーナリスト
1963年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在はフリーのジャーナリスト。専門は安全保障、情報戦、中東情勢、東アジア情勢など。著書に『イスラム国「世界同時テロ」』(KKベストセラーズ)『北朝鮮に備える軍事学』(講談社)などがある。
※当記事は時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」からの転載記事です。
黒井文太郎(ジャーナリスト ) ※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載
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