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「路上の子供たちは弱者じゃない」 話題作『ブランカとギター弾き』の長谷井宏紀監督に聞く

ニューズウィーク日本版 / 2017年8月2日 11時30分

――ピーターのような人は「社会的弱者」とも言われる。でもあなたは「弱者」とは捉えていない?

僕からすると、システムに24時間支配されている人のほうが弱者だと思う。この手の映画を撮るときに上から入っていき、「はい、かわいそう」で終わってしまうのはとても簡単なこと。でもその描き方って、「私たちは持っている、あなたたちは持っていない。だからかわいそう」というもの。

じゃあ、「持っている」とは一体何なのか? 持つ社会とは何なのか? こういう映画を見て、その感覚がひっくり返ったりしたら嬉しい。

――キャスティングはフィリピンのストリートの子供たちに声をかけていった?

もう、毎日最高でしたよ。楽しかった! 道ですれ違った瞬間に「え?」ってなったら、追いかけていって。「映画とかやってんだけど」と声をかけて、せりふを渡して「アクション!」――それを2カ月くらい、マニラのいろんな町でやった。トンドという大きくなスラムがあるんですけど、そこを重点的にね。

こういうアプローチの映画をこれからも作っていきたいと思う。世界中のいろんな所で、いろんな状況で暮らしている「弱者」と言われる人たちがいる。でもそれは弱者じゃないと僕は言い続けて行きたい。



ブランカの歌う場面も映画の見どころの1つ ⓒ2015-ALL Rights Reserved Dorje Film

――ブランカのキャスティングは一筋縄でいかず、最終的にサイデルに出てもらう前に別の少女で進めていた。

ねえ、まあ、なかなか......。パリで脚本を書いていたとき、サイデルが歌うYouTubeの動画をイタリアのプロデューサーが教えてくれた。それを見て、会ったことはないけどこの子しかいないと思った。ブランカのキャラクターとしてほしいものが、彼女に見えた。

でもフィリピンでサイデルを探したら、全然違う島に住んでいたので出てもらうのは難しいことが分かった。そこでキャスティングを始めて、道端で歌っている孤児の女の子に出会って、演技のワークショップをやっていたが......。製作側の判断で「彼女では難しい」ということになった。だから彼女のために違う役を作ったんだけど、現場には来なかった。今も僕の気持ちは複雑で、フィリピンに帰ったら会いに行っている。

ストリートで強く生きていくのはすごく難しいこと。誘惑もいっぱいあるし、11、12歳頃からはドラッグが入ってくる。

子供たちはごみの山で、ごみを拾ってお金に換えている。彼らが美しいのは、その大変な状況を吹き飛ばすくらいの生きるエネルギーにあふれているところ。僕にとっては誇りを持ったその美しい姿から、彼らが「強者」に見えた。映画には、そういう視点もちょっとは忍ばせたかった。ただし今回は、ゴミの山といったヘビーな場所には行かなかった。それはちょっと行き過ぎかなという感じもあって。

【参考記事】理想も希望も未来もなくひたすら怖いSFホラー『ライフ』

――「お金を払ってくれた観客を暗い気持ちにさせたくない」と過去のインタビューで言っていたが、基本的には映画で人をハッピーにしたい?

そこはまあ、「そんなこと言っちゃって」という感じなんですけど(笑)。映画って実生活を暗闇の中で体験するイニシエーションに近いと思うんです。

見る空間を船だとすると、そこにお客さんが入っていき、主人公の視点を通して映画という海を乗り越えていく。そこで新しい場所に行き着くのか、かつて自分が知っていた場所に行くのか。自分の中にこの映画と同じものがあったと再確認するのか。人それぞれ捉え方は違うだろうが、そういう精神的なイニシエーションに近いと思う。


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大橋 希(本誌記者)


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