北朝鮮の核開発を支える中朝貿易の闇
ニューズウィーク日本版 / 2017年8月8日 11時30分
単発的な行動として、丹東にある企業に制裁を科すのは大きな問題ではない。実際、米財務省が丹東鴻祥を制裁対象に追加すると発表した際、中国政府が強く反発することはなかったようだ。自国企業の1つを犠牲にしても、北朝鮮に圧力をかける姿勢を示しておく必要があると考えたのだろう。
だがトランプ政権の複数の安全保障担当者は今、北朝鮮の核開発を阻止しなかったとしてオバマ前政権や中国政府を非難する姿勢を強めている。
「北朝鮮が(核搭載可能なICBMの)開発を進めていたなか、米政府や国連が制裁を強化したのは確かだ」と、トランプ政権のある高官は話す。「しかし大きな抜け穴があり、中国(企業)が見逃されていた」。オバマ政権は米中関係において北朝鮮問題ではなく気候変動問題を重視していたと、別の米高官は言う。
「北朝鮮に対して(核合意前の)イランへの制裁と同程度に効果的な措置が発動されたことはない」と、米政権の上級高官は語る。「それは中国が理由だったと言っていい」
その構図は変わると、トランプは宣言している。米政府が期限とする夏の終わりまでに中国が問題の10社に真剣に対処しない場合、アメリカは単独でそれらの企業を追及し、必要に応じて米金融システムから遮断すべきだ――米政府はそう判断している。
そんな事態になれば、もちろん中国は喜ばない。問題は怒りの度合いだ。世界2位の経済大国として力を増す中国には、その気になればアメリカを害する手段がいくつもある。中国市場から米企業を締め出し、アジアでのアメリカの重要な同盟国である日本や韓国に経済的圧力をかけるかもしれない。
それでも米政府がみるところ、北朝鮮とつながる中国企業の取り締まりは唯一の選択肢だ。さもなければ、戦争への道を突き進むしかない。朝鮮半島での戦争を望む者は中国を含めて誰もいない。そしてトランプは中国に最後のチャンスを与えようとしている。
東アジアは朝鮮戦争休戦以来、最悪の緊張状態にある。さらなる悪化も覚悟すべきだ。
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[2017.8. 8号掲載]
ビル・パウエル(本誌シニアライター)
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