海外旅行格差から見える日本社会の深い分断
ニューズウィーク日本版 / 2017年8月9日 16時10分
<若者の「海外旅行離れ」が言われるなか、全国の都道府県別の若者の海外旅行の実施率に大きな差異が出ている。世帯収入別に見た子どもの海外旅行の実施率もこの10年で格差が拡大した>
8月のお盆休みを海外で過ごす人も多いだろう。1973年以前の固定相場制の時代では、「1ドル=360円」の為替レートを受け入れられる富裕層しか海外旅行には出かけられなかったが、今では誰もが簡単に国境を越えられる時代だ。
2016年の総務省『社会生活基本調査』によると、過去1年間に海外観光旅行をした国民の割合は7.2%、およそ14人に1人だ。しかし時系列推移をみると、1996年の10.4%をピークに減少の一途をたどっている。20代前半の若者の経験率も、この20年間で16.4%から12.9%に下がっている。このような変化を指して、国民(若者)の「海外離れ」などと言われている。
不況で経済的ゆとりがなくなった、インターネットで国外の情報が容易に得られるので行く必要性がなくなったなど、要因はいろいろ考えられる。大学生の場合は、学業の締め付けが厳しくなっているので、時間的余裕がなくなっていることもあるのではないかと思う。若者の内向化といった精神論を振りかざす前に、客観的な生活条件の変化に注目する必要がある。
【参考記事】日本の先進国陥落は間近、人口減少を前に成功体験を捨てよ
生活条件という点でみると、地域間の違いも見逃せない。同じ若年層でも、都市と地方では海外旅行の経験率に大きな差異がある。15~24歳の海外観光旅行経験率を都道府県別に出し、高い順に並べると<表1>のようになる。
全国値は9.7%だが、県別にみると東京の18.2%から青森の2.1%までの開きがある。東京は5人に1人で、青森は50人に1人だ。時間的余裕のある学生が占める割合等にもよるだろうが、この違いはあまりに大きい。同じ国内とは思えないほどの格差だ。
高率県の多くは首都圏や近畿圏に位置し、そこから遠ざかるほど率が低くなる傾向にある。海外への玄関口(国際空港)へのアクセシビリティという地理的要因もあるだろう。
また海外旅行には費用がかかるので、経済的要因も関与しているとみられる。<表1>の海外観光旅行経験率は、各県の1人あたり県民所得(2013年)と+0.5669という相関関係にある。こうした社会的、経済的条件により、若者のグローバル体験の機会に地域格差が生じている。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
ひとり親世帯の44.5%、高齢者の20%が「貧困」という厳しい現実…データから浮き彫りになる「貧富の差」の実態
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月20日 12時15分
-
「若者のディズニー離れは“料金が高い”から」説は、本当か
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年9月18日 7時40分
-
「世界最強のパスポート」なのに6人に1人しか持っていない…日本人の「海外離れ」が止まらない円安以外の理由
プレジデントオンライン / 2024年9月17日 10時15分
-
【世帯年収2000万円以上】富裕層の旅行、年代が若いほど特定の座席やクラスなど「移動」を重視、上の世代は?
マイナビニュース / 2024年9月3日 9時36分
-
「休む青年」44万人突破、韓国・ニート増が示す未来への不安 [韓国識者コラム]
KOREA WAVE / 2024年8月30日 17時0分
ランキング
-
1深圳の男児刺殺、自供した男には複数の前科…「電信設備の破壊」や「虚偽事実で公共の秩序乱す」事件起こす
読売新聞 / 2024年9月21日 7時25分
-
2ロシア凍結資産運用で5兆円支援 EU表明、G7合意実施へ前進
共同通信 / 2024年9月20日 21時25分
-
3深圳日本人学校の男児殺害に日本はもっと怒るべきだ
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月20日 15時58分
-
4韓国歌手が「整形の真相」衝撃告白…費用1億ウォン以上「自分のものは耳と目玉だけ」
KOREA WAVE / 2024年9月21日 7時0分
-
5「日本企業の中国撤退は止められない」と台湾経済メディア社長、日本人男児襲撃事件で
Record China / 2024年9月21日 7時0分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください