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虐殺や苦痛の現場を訪ねる「ダークツーリズム」とは何か

ニューズウィーク日本版 / 2017年8月24日 14時24分

ダークツーリズムの根底には、禁断のものを見たい「のぞき見趣味」があると指摘する研究者もいる。一般的には、ダークツーリズムに参加する動機は過去の出来事について学ぶことであり、現場への好奇心が参加を後押しするのだろう。



もちろん、本当の動機が何かをズバリ言い当てるのは難しい。研究結果はツアー参加者の自己申告に頼るしかない上、回答者はとかくポジティブな側面をアピールしたがる。ツアーの問題点を聞いた場合は尚更だ。

悲劇の現場を訪ねる倫理観

ダークツーリズムには、倫理的に重要な側面がある。訪朝ツアーの例を見てみよう。ツアーを擁護する人は、アメリカ人観光客が北朝鮮の人々と触れ合うことで、北朝鮮の人々の反米感情を和らげる効果がある、と主張する。旅行者の目を通して外国と自国を比較することで、先進国の人々が享受する自由の価値に気付き、自分たちの生活スタイルに疑問を持ち始めることもあるかもしれない、というのだ。

事実、過去10年間で北朝鮮はツーリズムに目覚め、世界のほとんどの国から観光客を受け入れている。だが実情を知る専門家は、北朝鮮の一般市民は観光客と交流していないと指摘する。ガイド付きのツアーでは、観光客は北朝鮮の政府関係者とは接触できても市民とは接触できないよう、巧みに旅程が組まれている。しかもツーリズムは北朝鮮の貴重な収入源となり、現政権の存続を助ける。北朝鮮がツーリズムで得る収入は、年間4500万ドルに上ると推計されている。

そこで新たな疑問が浮かぶ。人権侵害で繰り返し批判を受ける抑圧的な政権を観光で潤すのは、倫理的に正しいことだろうか。この疑問は、中国からハンガリーに至るまで、人権侵害を行った疑いのある国すべてに言えることだ。

【参考記事】北朝鮮の人権侵害はもう限界 今こそ対北政策の転換を

いかに遠い過去の出来事だとしても、他人の苦しみを利用して金儲けをすることは倫理に反する、という点ではほとんどの人の意見が一致する。

ダークツーリズムと教育の境界

ではホロコーストに限った場合、どうすればダークツーリズムの罠に陥るのを避けられるだろうか。

筆者はヨーロッパのユダヤ人が持つ社会的、文化的、芸術的な歴史に敬意を感じるような体験を教え子たちにしてもらいたいと思っている。例えばポーランドでは、首都ワルシャワにあるポーランド系ユダヤ人の歴史を収めたポーリン博物館を見学する。同時に、ポーランドにあるアウシュビッツ、マイダネク、トレブリンカといったユダヤ人の強制収容所跡も訪れる。これも、人類が苦しみ死んでいった場所に敬意を払う行為に他ならない。

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