両腕のない世界的ホルン奏者の願いは「普通と見られたい」
ニューズウィーク日本版 / 2017年10月2日 16時29分
クリーザーは数年をかけて奏法を工夫するが、「音色を見出すために信じられないほど練習した」と振り返っている。
©Maike Helbig
読者は腕がないことを忘れ、人生に向き合う機会を得る
この本の魅力はなんといっても、クリーザーの妥協を許さない向上心とユーモアあふれる軽妙かつ強気な語り口だろう。インタビュー形式による自伝のため、ドイツ語の原文も生き生きとした話し言葉で記述されている箇所が多い。
隅々にまで目を配る緻密さ、あふれ出る自信とそれを支える努力、つねに高みを目指そうとする23歳(当時)の若者の姿勢は読者に強い印象を残すはずだ。一方で幼少期のエピソードや、アルバムデビューに関連して発生するハプニング、ピアニストのクリストフとの掛け合いからは魅力的な人柄を窺い知ることができる。
クリーザーは本書で、腕がないことを強調しようとする周囲の態度に対して不服を申し立てる。そのような周囲の対応は、ときに彼に失礼なことを強いることがあるのだ。
しかし、登場するエピソードや彼の語り口によって、読者はクリーザーに腕がないことを忘れ、クリーザーと共にデビューアルバムが無事に成功するのかという緊張感に包まれながら、自身の人生に向き合う姿勢を見つめ直す機会を得られる。
印象的なセンテンスを対訳で読む
最後に、本書から印象的なセンテンスを。以下は『僕はホルンを足で吹く』の原書と邦訳からそれぞれ抜粋した。
●Wenn du etwas haben willst, arbeite dafür -- und wenn du es nicht bekommst, dann jammere nicht, sondern akzeptiere es.
(何かを得たいのであれば、そのために頑張りなさい――それが手に入らなくても、駄々をこねずにそれを受け入れなさい、ということだ)
――クリーザーの母の教育方針。両親には腕のない子供に特別プログラムを受けさせる考えはなかった。努力すること、何かのせいにしないこと、ありのままの自分で生きていくこと、というこの教育方針によって、同氏は他の子供と同様、「すべてを自分のやり方で学習しなくてはいけない」ということを学ぶ。
●Unangenehm wird es im Leben immer erst dann, wenn du etwas willst.
(何かを望んで、はじめて人生にはやっかいごとも生じてくる)
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