人間には仲間がいる──「国境なき医師団」を取材して
ニューズウィーク日本版 / 2017年10月12日 16時45分
小さな部屋の前のポーチに出てくれたのはマリリン・ボネットという茶色い髪の背筋の伸びた女性医師で、紺のパンツに濃い水色の襟ぐりの広いシャツを着こなし、大きめの金属製の美しい首飾りをつけていて、端的に言ってとてもかっこいい人だった。
エピセンターは1987年にMSFが設立した科学・疫学研究機関で、感染症の発生と流行、その原因について科学的証拠を提供することを目的としているそうだ。そういう第三者機関による正しい解析がなければ、適切な対応が取れないのは当然だろう。
特にウガンダで研究が進んでいるのはマラリア、HIV/エイズ、アフリカ睡眠病などで、最後のアフリカ睡眠病はサハラ以南のアフリカに多い風土病で、患者・医療者の負担を軽くする検査法と新薬の開発が課題だという。
少し枯れた声の、意志の強そうなマリリンによれば、そうした病を「顧みられない熱帯病 (neglected tropical diseases)」と呼ぶのだそうで、罹患するのが貧しい人であるケースがほとんどであるため製薬会社にうまみがなく、なかなか治療が進まないのだ。したがって確かな効果があり、安価でもある薬剤をどう作ってもらうかのロビイングもまた、MSFの大きな仕事のひとつなのである。
さらにくわしく言えば、もしそのような薬が手に入ったとしても、現地でそれを使うスタッフの技能と知識が問われており、少しでもそれが低いと薬本来の効果が出なくなる。ゆえにスタッフトレーニングが欠かせないのだそうだ。
もちろんマリリンたちエピセンターも他機関と連携して統計を行っており、医療調査のための資金調達も協力しあっているという。人道支援団体はそれぞれ、自分たち組織の強いところをつなげ、弱いところを補い合って苦難に陥った人々に手を差し伸べているのだ。彼ら自身が完全で強いわけではないのである。
マリリン博士と俺。
マリリン自身のことも俺たちは聞いてみた。
するともともとMSFに参加したのが1998年で、MSFがノーベル平和賞を取る前の年。数々の活動を経て、彼女マリリン医学博士は2003年エピセンターに移り、そこで薬剤耐性結核、髄膜炎、黄熱病などの研究をしながら、MSFがノーベル賞の賞金で設立した「必須医薬品キャンペーン(製薬会社に薬価の引き下げや新薬・診断ツールなどの開発を促す)」と共に活動を行ってきたのだそうだった。
と同時に、彼女たちは病気が蔓延する地域の人たちの啓蒙も行わねばならないという。なぜならば、例えばHIV/エイズもいまだに「悪魔の病気」と考えられて治療に考えが至らない場所があり、それは土地の宗教、伝統に埋没して漫然と死を待つことになってしまうからだ。
この記事に関連するニュース
-
【動画】「一体いつになれば 人道が尊重されるのか」──EU移民政策の犠牲になる人びと
国境なき医師団 / 2024年5月1日 17時18分
-
ミャンマー:戦闘の激化、病院の閉鎖、ロヒンギャへの迫害──国境なき医師団スタッフが目撃した過酷な実態
国境なき医師団 / 2024年4月30日 17時14分
-
ゴールデンウィークに世界を知る!おすすめ動画5選
国境なき医師団 / 2024年4月26日 17時15分
-
そこに守るべき命があるから──国境なき医師団の日本人スタッフが語る、紛争の1年 #スーダンの話をしよう
国境なき医師団 / 2024年4月16日 17時20分
-
指を切られた少女、銃で撃たれた赤ちゃん──国境なき医師団の日本人スタッフが語る、紛争の1年 #スーダンの話をしよう【その1】
国境なき医師団 / 2024年4月15日 17時17分
ランキング
-
1最大の脅威は「ウクライナ戦争ではなく中国」 トランプ陣営のシンクタンクが提言書出版へ
産経ニュース / 2024年5月4日 17時39分
-
2習近平氏が5日から5年ぶりに訪欧、米国の対中圧力に対抗 欧州の足並み乱す狙いも
産経ニュース / 2024年5月4日 19時48分
-
3CIAバーンズ長官、カイロ入り ガザ休戦交渉が本格化へ
共同通信 / 2024年5月4日 10時48分
-
4台湾地震1か月、花蓮の観光客激減・夜市は閑散と…「惨たんたる状況だ」
読売新聞 / 2024年5月4日 18時34分
-
5ゼレンスキー氏ら指名手配 ロシア内務省
共同通信 / 2024年5月5日 0時51分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください