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日本の対中観が現実と乖離する理由──阿南友亮教授インタビュー

ニューズウィーク日本版 / 2017年10月18日 11時51分

――中国台頭論が盛んなのは日本だけではないのでは。

「中国が新たな超大国となり、アメリカを中心とする既存の世界秩序に挑戦するのは必然の成り行きだ」とする台頭論は、アメリカでも盛んに議論されている。そうした台頭論は、1+1=2というシンプルな論理に基づいている。つまり、「14億の人口」+「経済発展」=「アメリカに匹敵する大国」というロジックだ。

だが経済発展に伴うすさまじいまでの格差拡大とそれを原因とする社会不安の深刻化を考えれば、1+1は1.4くらいにとどまるかもしれず、0.8といったシナリオさえも否定できない。つまり、経済発展によって国内体制がかえって動揺することも十分あり得る。

【参考記事】石平「中国『崩壊』とは言ってない。予言したこともない」



――日本は今では崩壊論のほうが盛んかもしれない。

深刻な矛盾を抱える中国の現状を正確に反映していない台頭論が日本国内で流布した結果として中国脅威論が生まれ、その台頭・脅威論に対するアンチテーゼとして崩壊論が浮上した。崩壊論には2種類ある。1つは中国に対する過剰なまでの対抗心と反発が、中国を全否定する主張に転化しているパターン。もう1つは過度な台頭・脅威論を沈静化させるために、現代中国が抱える諸矛盾と脆弱性をあえて強調するパターンだ。

いずれにしても日本社会、特に言論界が、中国の社会主義神話が虚構であったという教訓をきちんと生かして、共産党の新たな神話、すなわち経済成長神話の中身を冷静に吟味していれば、非現実的な台頭論に対する感情的反発がここまで高まることはなかったのではないか。

――実際に崩壊はあるのか。

そもそも崩壊を論じる前に、現在の中国が近代国家としての要素を十分に兼ね備えていないという点に注目する必要がある。憲法を根幹とする法治主義に基づいて国家が国内民衆の人権を保障し、その民衆が選挙などを通じて国家の運営に参画するという形による近代的な国家と社会の一体化がいまだにほとんどできていない。

特に人口の大半が暮らす農村部では、国家に対する当事者意識が全般的に低い。政治参加よりも自分の最低限の生活が確保できればそれでいいと考える風潮が濃厚だ。政治に対する諦めムードも漂っている。土地改革や経済発展を成し遂げたにもかかわらず、農村の生活水準は依然として非常に低い水準にあり、劇的に改善する見込みはない。もちろん不満はいろいろあるが、共産党は民衆に銃口を向けることもいとわない人民解放軍や武装警察を抱えているため、人々は理不尽な現実でも受け入れるしかない。

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