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朝鮮半島有事の際に、拉致被害者をどう救出するか - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2017年10月25日 11時0分

<北朝鮮有事を想定した自衛隊の拉致被害者の救出活動を可能にするには、日本国内の法整備だけでなく中韓との調整が不可欠>

今回の衆院選の終盤に、産経新聞は各党に次のようなアンケートを行い、その結果を掲載しています。(電子版による)アンケートは、「朝鮮半島有事の際に拉致被害者をめぐり」救出のために「自衛隊の活動を認めるべきか?」というものです。

難しい質問ですが、各党ともに極端なことは言えるはずもないわけで、保守政党は「議論を深めたい」とか「現状では無理だが立法化しよう」という種類の回答、これに対して左派政党は「有事を回避すべき」とか「憲法の範囲で」という種類の回答を寄せていました。「アメリカとの連携」を重視するとした政党も複数に上っています。

そんなわけで、回答としてはどの政党も無難だったのですが、この質問と回答を見ていて、この問題についてはもう少し突き詰めて考える必要を感じさせられたのも事実です。

1つ目は、中国との連携という問題です。

現在、国際社会で飛び交っている報道を前提にしますと、朝鮮半島有事の可能性として最も高いのは、「アメリカは核施設および政府中枢を狙った空爆」を実施する、その場合に、事前に中国と詳細な連携を相談した上で「中国は鴨緑江を越えてトラブルが自国領内に及ぶのを食い止める」だけでなく、「北朝鮮領内が混乱した場合には人民解放軍が治安維持のために介入する」、あるいは「核兵器の押収と除去」を行う可能性なども指摘されています。

仮にそうしたシナリオで大きな混乱が生じた場合に、北朝鮮社会で過酷な立場に置かれていると思われる拉致被害者を救出するには、中国人民解放軍の協力は不可欠になると思われます。そこが欠落した議論は不完全ではないかと思うのです。

2つ目は、韓国との連携です。

日本だけでなく、韓国にも日本以上に大量の拉致被害があるのは既報の通りで、被害者の会の飯塚繁雄氏は、その韓国の被害者家族との緊密な関係を築いてこられたことも知られています。さらに言えば、朝鮮有事があるマグニチュードを超えていった場合には、ベルリンの壁崩壊(1989年)のように、「なし崩し的に韓国による北の吸収合併」という可能性もあります。そうしたファクターを考えたときに、韓国との連携なしに、自衛隊の特殊部隊等が北朝鮮領内で拉致被害者の救出活動を行うというのは非現実的です。



さらに言えば、韓国との事前の協議を省略して自衛隊が朝鮮半島内で活動することになると「軍国日本の亡霊が再びやってきた」という感情的な反発を受ける可能性があります。その場合は、日本の世論との間で悪感情の応酬が起きる危険があり、これはそのまま「なし崩し統一」後の韓国と日本の関係悪化という、日本の安全保障上の大きなコストとして跳ね返って来るリスクに直結します。

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