イスラム国の首都ラッカを解放したが、スケープゴートの危機にあるクルド
ニューズウィーク日本版 / 2017年10月25日 19時51分
むろん、ロジャヴァが掌握した油田をどのように管理しようとしているのかは現時点では分からない。イスラーム国と同じように、トルコ(そしてシリア政府支配地域)に石油を密輸し、自らの支配を維持強化するための資金源にしようとするかもしれない。また、トルコが警鐘を鳴らすように、地中海岸まで支配地域を伸張し、対外輸出を企てているのかもしれない。だが、「テロとの戦い」から「石油をめぐる戦い」への移行は、ロジャヴァが自らを欧米陣営のなかに有機的に組み込むことで生き残りを図ろうとしているとも解釈できる。
米国がシリア各所に設置した基地を撤退させる気配は今のところなく、シリア駐留(ないしは部分占領)は当面続くだろう。また西側諸国も、ラッカ市への人道支援の名のもと、ロジャヴァの実効支配を既成事実化しようとしている。それゆえ、ロジャヴァが近い将来、イスラーム国に代わる「テロとの戦い」の標的として国際社会の包囲と攻撃に曝されることはないだろう。だが、ロジャヴァがシリア内戦の混乱のなかで勝ち取った自治を維持しようとして腐心すればするほど、彼らはシリア政府に対する「自治」ではなく、欧米諸国への「従属」を強めるという矛盾に陥ってしまうのである。
青山弘之(東京外国語大学教授)
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