ディズニーが認めたテクノロジーアーティスト深澤研 MR技術で世界に魔法をかける
ニューズウィーク日本版 / 2018年1月5日 12時50分
シリーズ第2弾の『ゾンビブース 2』 TYFFON/YouTube
深澤が設立したティフォンは2014年、シリコンバレーでも有名なスタートアップ支援プログラム「ディズニー・アクセラレーター」の第1期生としてアジアから唯一選ばれ、インキュベイトファンドから100万ドルを調達した。この資金を元に作ったのがCorridorだ。
技術に疎い人にも「これはすごい」と感じさせるCorridorの魅力は、圧倒的な没入感にある。それを実現するには、体験者が自分や同伴者の姿を見えるようにすること、その世界を見るだけでなく歩き回れるようにすることが必要と考えた深澤たちは、「マジックリアリティ」という独自システムを開発した(商標登録と特許を申請中)。
さらに、作り物じみた残念感がない点も没入感を生み出す重要な要素。従来のMRコンテンツは最初こそ目新しさに驚かされるが、慣れるに従って薄っぺらく感じるようになる。
かざしたランタンに反応する仕掛けも TYFFON INC.
その点、深澤が作る世界には底知れない驚きがある。通路の隅にうごめく6万匹のイナゴは、体験者の動きに応じて飛び方も変わるようプログラミングされている。あまりにリアルで、飛んでくるイナゴを思わず手で振り払ってしまうほどだ。
舞台となる館の歴史や背景も細かく設定。住人を襲った悲劇、重なる不幸、そこから始まる黒い噂を小説のように作り込み、登場する無数の「亡者」にはそれぞれ生前の姿まで設定した。そこまでする理由を深澤に尋ねると、「やりたいことをやっただけ」と、サラリと言う。しかし、そこに他と一線を画す本質がある。未知の技術をどう生かすかという「技術先行型」ではなく、表現したい世界がまずあって、それを実現するために技術を使う。だから、技術ありきの場合に陥りやすい空虚さとは無縁でいられる。
【参考記事】「動く油絵」を駆使してゴッホの死に迫る異色作
深澤が作り込む世界は怖いだけでなく、ため息をつくほど美しい。そんな美しいホラーの世界に魅了されたのは4歳の頃。家族と出掛けた東京ディズニーランドで、ホーンテッドマンションを訪れたのがきっかけだ。
東京・大田区で3人兄姉の末っ子として育ったが、人見知りが激しく小学生の頃に通った学習塾では友達はゼロ。でも絵を描くことと、耽美な外国のホラーやファンタジーの世界が大好きで、特にミヒャエル・エンデの『モモ』と『はてしない物語』の世界に夢中になった。レオナルド・ダビンチの解剖のデッサン画を夢中で模写し、誕生日にもらった人間の頭蓋骨の石膏像を持ち歩いた。
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