今の日本で子を持つことは「ぜいたく」なのか?
ニューズウィーク日本版 / 2018年1月11日 15時20分
<諸外国と比較すると、日本の子育て世代は子を持つ比率の所得格差が大きい。現実問題として子育てが「ぜいたく」になっている社会>
「結婚・出産なんてぜいたくだ」。藤田孝典氏の名著『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(講談社現代新書)の帯には、こんなフレーズが出てくる。
いささか過激だが、現実を言い当てている面もあるだろう。正社員になって、結婚して、子どもを産んで、家を建てて......。以前の世代が「当たり前」にたどってきたライフコースは、現在では成立しにくくなっている。若者の貧困化が進むなかで、結婚して子を持つことは、一部の層にしかできない「ぜいたく」になっているのではないか。
日本では少子化が進んでいるが、この問題は「子を持てる(持てない)のは誰か?」という視点で見なければならない。子育て世代を経済力のレベルでグループ化し、子がいる人の比率を比較すると、身も蓋もない現実が露わになる。
経済協力開発機構(OECD)の成人学力調査「PIAAC 2012」では、対象者の年収や子の有無が調査されている。日本の30~40代男性を見ると、子がいる人の割合は6割だ。データが分かる25カ国の中では、イタリアに次いで低い。
この数値は、年収によって大きな差異が生じている。年収が国民全体の下位25%未満、中間、上位25%以上の3つのグループに分けて、子がいる人の比率を計算してみる。<表1>は、国ごとの一覧表だ。アメリカとドイツは年齢をたずねていないので、分析対象に含めていない。
日本をみると、下位25%未満の低所得層が32.7%、中間層が48.5%、上位25%以上の高所得層が76.4%と、直線的な傾向になっている。
他の多くの国でもそうだが、この傾斜が最も急なのは日本だ。それは、高所得層で子のいる比率が低所得層の何倍かという格差倍率(右端の数字)から知ることができる。日本は2.3倍で、他を圧倒している。リトアニアやスロベニアでは、階層格差がほとんどない。スロベニアでは高所得層より低所得層の方が高いくらいだ。国民皆平等の共産主義の名残だろうか。
日本は、経済力と結婚・出産の関連が最も強い社会、藤田氏が言う「結婚・出産なんてぜいたく」の度合いが最も高い社会のようだ。
さらに、日本の低所得の中年男性の子がいる比率は32.7%と飛び抜けて低い。これは、2つの要因に分けられるだろう。(1)低収入で結婚ができない、(2)子育てにカネがかかるので出産に踏み切れない、というものだ。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
増え続ける「未婚シングル」を待ち受ける地獄…気ままな「ひとりの人生」を望む男女は実際どれだけいるのか?
集英社オンライン / 2024年7月15日 17時0分
-
東京の「出生率0.99」を騒ぐ人に欠けている視点 若者はお金がなく婚姻数の減少が加速していく
東洋経済オンライン / 2024年7月6日 8時50分
-
日本の夫婦が生む子どもの数は70年代以降減っていない
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月27日 14時40分
-
「子育て支援」はむしろ少子化を加速させている…マスコミがばら撒いた「子育てには金がかかる」という呪い
プレジデントオンライン / 2024年6月27日 9時15分
-
「結婚したくても、結婚できない人」が増え続けている“シビアすぎる現実”
日刊SPA! / 2024年6月21日 15時54分
ランキング
-
1トランプ氏は「神の手に守られた救世主」 暗殺未遂、個人崇拝に拍車
AFPBB News / 2024年7月17日 16時29分
-
2米副大統領候補のバンス氏、台湾へのパトリオット供与遅れを批判「ウクライナのせい」
産経ニュース / 2024年7月17日 14時38分
-
3「将軍」最多25ノミネート=主演の真田広之さん候補―米エミー賞
時事通信 / 2024年7月18日 4時53分
-
4百貨店で大規模火災 16人死亡 中国・四川省
日テレNEWS NNN / 2024年7月18日 10時25分
-
5韓国でLINEユーザーが急増した理由 日本への反発?
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月17日 15時55分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください