アメリカで沸き起こった「オプラ2020」待望論を考える - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2018年1月11日 17時0分
トークショーにおけるオプラは、喜怒哀楽を前面に出すスタイルが特徴でした。傷付いた人の心情に寄り添い、その人に強い共感を寄せていくことで、トークショーが人情劇になってゆく、それがオプラの魅力なのですが、その原点にあるのは、少女時代に性的虐待の被害に遭ったということを彼女自身がカミングアウトしている事実です。
例えば、映画女優として彼女が認められる契機となった『カラーパープル』(スティーブン・スピルバーグ監督、1985年)』で演じたソフィアという役でも、虐待の被害者を演じていたのですが、ある意味で彼女は自身の人生を通じて、ハラスメントに対する戦いを続けてきたとも言えます。それは加害への告発だけでなく、被害者に寄り添い、被害者の回復(resilience)を助けるということも含めた戦いでした。
そんな彼女が、「セクハラ撲滅」という大きな時代の波の中で行われたゴールデングローブ賞授賞式で、生涯表彰をされたというのは、これ以上の舞台はないという印象です。そしてそのスピーチは、期待を大きく上回るパワフルなものだったのです。彼女は、自身の生い立ちを黒人の権利向上の歴史と重ね合わせただけでなく、女性の権利に関しても「me too などと言わなくてはならない人が2度と出ない社会を」「新しい日が地平線の向こうに見える」と力強く訴えたのでした。当然、会場は総立ちとなったのです。
その瞬間に、テレビを見ていた「真ん中から左」の人々は、「トランプ時代になって、長く久しく聞いたことのなかった、品格と内容のあるスピーチ」に酔いしれてしまったと言っていいでしょう。オプラは、トランプという人間の対極にいるような存在で、しかもトランプに十分に対抗できるような大衆性もあれば資金力もあるわけです。待望論が起きるのも自然な流れと言えます。
考えてみれば、オプラという人は、その影響力を大統領選にも行使してきています。例えば、2008年の大統領選を目指していたオバマとヒラリーが激しい予備選を戦う中で、一つの決め手になったのは、2007年12月にオプラがオバマ支持を打ち出したからと言われています。また、彼女が支持することで、「オバマは奴隷であったアメリカ黒人の末裔ではない」という黒人票の一部にあった批判を払拭することにもなりました。
オバマの前任であるジョージ・W・ブッシュにしても、2000年の選挙では9月にオプラの番組に出演した際に見せた「人情味」が勝利を後押ししたと言われているわけです。そのように、強い影響力のある彼女が、仮に自分で大統領選に出てくれば有力な候補になるのは間違いない、そんな見方がされています。
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