博士を取っても大学教員になれない「無職博士」の大量生産
ニューズウィーク日本版 / 2018年1月25日 16時0分
<大学教員の需要はこの50年間で右肩下がり、今や博士14人に1人しか教員のポストはない>
東洋経済オンラインの「52歳大学非常勤講師・年収200万円の不条理」(1月12日)という記事が注目を集めている。大学院博士課程を終えたものの、大学の専任教員になれず、非常勤講師という不安定な身分で糊口を凌いでいる男性のケースだ。
博士課程修了者の多くは、大学教員等の研究職志望だが、少子化もあり採用は年々減少している。その一方で、90年代以降の大学院重点化政策により、博士課程修了者は激増している。1990年では5812人だったが、2017年では1万5658人に膨れ上がっている。
昔は、需要が供給を上回っていた。高度経済成長期の1965(昭和40)年の博士課程修了者は2061人だったが、この年に発生した大学教員の需要数(当該年5月の本務教員数から、前年5月のそれを引いた数)は3037人。単純に考えると、希望者の全員が大学教員になれたことになる。
大学教員市場がどれほど開かれているかは、後者を前者で割った数値で測られる。1965年は1.47であったが、最近は目を覆いたくなるような状況になっている。<図1>は、1965~2017年の時系列推移をグラフにしたものだ。
博士課程修了者(供給)は大幅に増えているが、大学教員の発生需要数は減っている。需要を供給で割った開放係数は、70年代後半に1.0を下回り、現在まで低下の傾向をたどる。大学院重点化政策が始まる前の90年では0.46だったが、2017年では0.07という惨状だ。最近では、14人に1つのポストしかないことになる。
社会の高度化に伴い、博士号取得者に対する民間からの需要も増えるだろう。こう踏んでの大学院重点化政策だったが、その予測は見事に外れ、研究畑しか行き場がない状況は変わっていない。その結果、大学教員市場は閉塞化を極め<図1>、「オーバードクター」問題が以前にも増して深刻化している。冒頭の記事で紹介されている男性は、レアケースではない。
大学院博士課程の学生募集を当面の間停止すべきという提案もあるが(潮木守一『職業としての大学教授』中央公論新社、2009年)、悲惨な末路をたどる若者の増加、国税を投じての無職博士量産、という弊害が出ていることを考えると、このような措置もやむを得ない。
しかし、こうした強硬策を待たずとも、博士課程入学者は2003年をピークに減少の傾向にある。博士課程を出ても行き場がないことが知れ渡ってきたためだろう。それは、<表1>のデータからもうかがえる。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
2025年度入試からデータサイエンス研究科博士前期課程の収容定員を増員
Digital PR Platform / 2024年5月2日 10時0分
-
Forbes JAPAN誌「NEXT100 100通りの世界を救う希望」に一般社団法人OPHIS 代表理事の匂坂が選出されました
PR TIMES / 2024年4月29日 13時15分
-
文科省「博士数を3倍に増やす」と言うが… 博士号取得者の“就職”が困難を極めるワケ
オトナンサー / 2024年4月28日 6時10分
-
国内外で活躍する現代美術家「澤田知子」がキュレーションを兼任する『Interactions』開催!
PR TIMES / 2024年4月22日 13時45分
-
井堀利宏 著『超速・経済学の授業』2024年4月16日刊行
@Press / 2024年4月9日 17時0分
ランキング
-
1習近平氏が5日から5年ぶりに訪欧、米国の対中圧力に対抗 欧州の足並み乱す狙いも
産経ニュース / 2024年5月4日 19時48分
-
2最大の脅威は「ウクライナ戦争ではなく中国」 トランプ陣営のシンクタンクが提言書出版へ
産経ニュース / 2024年5月4日 17時39分
-
3ガザ休戦、詰めの駆け引き ハマス、カイロで交渉開始
共同通信 / 2024年5月5日 0時12分
-
4台湾地震1か月、花蓮の観光客激減・夜市は閑散と…「惨たんたる状況だ」
読売新聞 / 2024年5月4日 18時34分
-
5ゼレンスキー氏ら指名手配 ロシア内務省
共同通信 / 2024年5月5日 0時51分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください