ロシアの「賢帝」プーチンに死角あり
ニューズウィーク日本版 / 2018年1月26日 17時30分
この意味で、過去17年間にわたるプーチンの政策と行動はロシアにおける独裁と父権主義の歴史的パターンに沿っているように思える。プーチンは「賢帝」を演じ、ロシアの強さを強調してきた。
ロシアは近隣国の影響力拡大や欧米への接近を望んでいない。バルカン半島での紛争やNATO拡大、ジョージア(グルジア)、ウクライナ、リビア、エジプトでの騒乱などの危機が起きるたび、プーチンの中でアメリカへの不満が鬱積していった。
プーチンの世界観と政策は、ロシアは常に欧米の裏切りに遭ってきたというロシアの何世紀にも及ぶ認識に沿っている。ロシアの暴君たちは、劣等感とメシア思想に由来する自国の特別視を利用して無敵の権力を手にしようとしてきた。ロシアの弱みに付け込むやからから国を守るのが賢帝だ。いつ裏切られてもおかしくない状態では、国の独立を維持し警戒を解かない強い指導者が必要で、真の民主主義は脅威になる。
実際プーチンは、国外で混乱を扇動して国民に外国を危険視させる一方、自分は外国の脅威から国家を守れる強い指導者だとアピールしている。民衆は透明性や政治参加、横領罪に問われた野党指導者たちと引き換えに、安定と安全を手に入れる。
ただし、ロシア神話の象徴を利用してはいても、プーチンは典型的なロシア指導者とは違う新しい指導者、作られた指導者だ。彼は別の人間を演じており、どこまでもKGBだ。
「仮想敵」に責任を転嫁
政策も公的な行動も、皇帝のように振る舞って権力を強化し維持するための作戦だ。彼が1000年の歴史を誇る神秘的なロシア国家の全能の指導者たちに連なろうとするのは、権力にしがみつくための意識的で冷笑的な試みにほかならない。外国の独裁者たちと同様、彼も自国民を恐れている。国民の支持を確保するのに好景気や生活水準の向上はもう期待できないと承知していて、代わりにナチスの「血と土」的なナショナリズムにしがみついている。
16年の米大統領選に対する攻撃にも、国民へのメッセージが込められていた。プーチンは世界の舞台で尊敬され恐れられる存在だから、国民はその力を畏怖すべきだというものだ。多文化主義、移民、同性婚を批判するのは、退廃し腐敗した欧米と、ロシアの伝統的価値観と安定した生活を対比するため。全ては自身が権力の座にとどまり、自らが不正に築き上げた富を守るための凝った作り話なのだ。
プーチンの国家をどう定義すべきか、多くの研究がなされてきた。全体主義、マフィア国家、縁故資本主義、泥棒政治、監視・警察国家、独裁体制......。プーチンのロシアはどの要素もある程度含んでいるが、目的はただ1つ──支配することだ。
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