フェイスブックの炎上と映画が発端でノルウェー政権解体の危機
ニューズウィーク日本版 / 2018年3月20日 14時30分
ウトヤ島では、当時、左派最大政党「労働党」の青年部による夏合宿がおこなわれていた。移民や難民の受け入れに寛容的なイメージが強い労働党。その未来の政治家の卵を狙ったのが、極右思想のブレイビクだった。
「もう、2度と7月22日を繰り返さない」
「2人目のブレイビクをうまない」
「憎悪に憎悪で答えず、ノルウェーの民主主義を守ろう」
ノルウェーは、そう誓ったはずだった。
「ヘイトスピーチを放置してはいけない。過激思想は、いつか行動となる」
ノルウェーは、そう学んだはずだった。
しかし、リストハウグ大臣の今回の炎上投稿で、右派左派問わず、国民が恐怖を感じ始めている。
ヘイトスピーチと陰謀説にエネルギーを与えてしまっているリストハウグ
政権に座る大臣が、ヘイトスピーチの温床ともなりつつあるFacebookページを運営している。「労働党による移民政策のせいで、国家の安全が危機に」というネットでの陰謀説が、大きく息を吹き返し始めている。
リストハウグ氏の炎上投稿は、初めてではない。
これまでにも、数えきれないほどに彼女は炎上発言を繰り返してきた。「みんなに好かれること」を気にしない同氏には、敵も多いが、熱狂的な支持者も多い。
リストハウグ氏は距離を置こうとするが、彼女のファンのなかには、過激な思想を持つ人物やグループがいることも以前から指摘されている。
常に誰かを怒らせ、紙面の見出しを飾る政治家
彼女は、常にどこかの世論を怒らせていた。
農業・食糧大臣だった頃は、農家の人々を。移民・社会統合大臣だった頃は、外国人・移民・難民を。法務大臣となった今、彼女の矢は、国籍や階級を問わず、「ノルウェー国民」に対して向けられてしまった。
労働党をテロリストのための党と名指しすることで憤るのは、労働党だけではない。
今でも精神的な苦痛を抱えるテロの遺族、生存者。テロに悲しみと怒りを覚えた国民のタブーな部分を、彼女は突き刺してしまったのだ。
頭の中の憎悪は、いつしか行動となる
当時の議論を追っていた人は、知っている。
ブレイビクを生んだものは、なんだったのか。
暗黒のインターネットにずっと棲みついていた、人々の心に伝染する憎悪、他者の排除、陰謀説。
移民や難民は、北欧の福祉制度を脅かすという、目に見えない不安。
「ブレイビクという人間は一人だったが、彼と思想を共有する人々がいることを我々は知っている。ブレイビクは、その群れの中から外れて、頭の中の考えを行動にうつしただけだ」
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