赤十字の人道支援がアサドを救う
ニューズウィーク日本版 / 2018年4月11日 18時20分
赤新月社とアサドの関係
反政府勢力が支援団体に疑いの目を向けるのには理由がある。支援団体がアサドの怒りを買わないようにしていることが救援物資の配給にゆがみを生じさせ、アサドの延命を助けているとの批判は以前からある。
国連の支援組織は反政府勢力が掌握している地域の市民に対する人道支援に二の足を踏んでいるとか、国連人道問題調整事務所はアサド政権の要請を受けて、国連への報告書から政府軍に包囲された地域に関する記述を削除したとも言われる。
マウラーに言わせれば、国際支援にこうしたジレンマは付き物だ。政治的中立を守るのがICRCの基本原則。しかし人道支援の基礎となるジュネーブ条約や国連の決議は、常に主権国家の優越を認めている。
「最初は必ず相手国の政府と接触し、交渉して私たちに何ができるかを探る」とマウラーは言う。そのせいで救援物資の配布に「ある種の不均衡」が生じることは認めた。だが、シリア政府に対しては一貫して物資の届く範囲を広げるよう迫っていると強調した。
ICRCは過去1年間にシリア全土で300万人に食料を届け、100万人以上に医療サービスを提供した。東グータだけでも食料や飲み水、衛生用品を何万もの人々に届けた。シリア政府の了解なしでは不可能だっただろう。「結果に満足してはいないが、力関係の現実は無視できない」とマウラーは言う。
その「現実」には、現地での受け皿となっているシリア・アラブ赤新月社(SARC)の幹部たちも含まれる。SARCの現場スタッフはよくやっているし、その政治的見解もさまざまだが、トップの面々はアサド政権との関係が深い。前総裁のアブドルラーマン・アル・アッタルはアサドのいとこラミ・マクルーフと密接な関係を保っていたという。
マクルーフは政権派の民兵組織に資金を出している実業家だ。08年の米国務省公電には、マクルーフが制裁違反となる旅客機のリース契約を結ぶため、アッタルを「隠れみの」に使った形跡ありと記されている。
「共犯者」とでも協力する
たぶん疑惑はマウラーも承知している。それでもシリアで活動するには政権側の人物との協力が不可欠なのか。それともICRCの原則を貫くためならシリア政府との関係を犠牲にする覚悟があるのか?
難しい問題だ、とマウラーは言う。SARCとシリア政府の関係は合法的なものだし、彼らは国際赤十字・赤新月社の原則を守って活動している。だからICRCが彼らとの関係を断つ気配はない。「よりよい支援と保護をシリア国民に提供する機会のほうが、運営幹部に政府寄りの人物がいるリスクよりも重い」とマウラーは言う。「それが私の変わらぬ判断だ」
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