イケメン首相トルドーの人気に陰り
ニューズウィーク日本版 / 2018年4月13日 15時40分
夕食会の前にアトワルの招待は取り消されたが、カナダ政府はこの一件で責任逃れを画策し、とんだ茶番劇を演じてしまった。トルドーの側近らは当初、与党・自由党のインド系議員ランディープ・サライがアトワルを招待者リストに入れたと主張。サライ1人に責任を押し付けて幕引きを図ろうとした。
その後、首相の国家安全保障担当顧問が、インド政権内の一部分子がトルドーに恥をかかせるためにアトワルをリストに入れたと、何の根拠もなくメディアに漏らした。当然ながらインド政府はこれに激怒。カナダの国民も信じなかった。この茶番劇は、トルドーとインドのナレンドラ・モディ首相の会談が1週間の訪問の最終日にようやく行われたことを内外に印象付ける結果となった。
エルボーゲートと違って、インド訪問のまずいお膳立てが大きな痛手となったのはなぜか。カナダの有権者はトルドーを支持しつつも、彼とその取り巻きに漠然とした不信感を抱いてきた。今回の一件でその感情が表面化したとみていい。
不信感の1つはトルドーその人に対するもの。首相の重責を担うにはまだ政治経験が足りない、パーティー好きの若造ではないかという見方があった。
トルドーは15年の総選挙でほぼ完璧な選挙戦を展開し、そんな見方を吹き飛ばした。さらに就任後は世界中にポピュリズムの嵐が吹き荒れるなか、分別ある冷静な姿勢で国政の舵を取り、内外の期待を一身に集めた。何よりもドナルド・トランプ米大統領の保護主義的な「貿易爆弾」の信管を慎重に抜こうとする姿勢が高評価につながった。
だが、インドの民族衣装を着て、ダンスのパフォーマンスまで披露したのは間が悪過ぎた。折しも、一部の外国メディアが彼をコケにし始めていたからだ。
大打撃を与えたのは英デイリー・メールの記事だ。カナダの首相は「世界一政治的に正しい政治家なのか」という見出しで、おバカなトルドーのモンタージュ写真を掲載。タブロイド紙の記事とはいえ、この写真はカナダのソーシャルメディアで広く拡散され、首相のイメージダウンにつながった。
さらに「テロリスト招待」疑惑で、有権者の心にくすぶっていたもう1つの疑念が噴き出した。こちらはトルドーだけでなく、自由党全般への疑念だ。
一強の油断が落とし穴
自由党はかつて過激な民族的マイノリティーとつながりがあるとして、有権者の不信を買っていた。00年には自由党の有力議員がタミル人のテロ組織の資金集めとみられる夕食会に参加し、一大スキャンダルになった。
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