イランはアメリカを二度と信用しない
ニューズウィーク日本版 / 2018年5月18日 17時45分
<新時代の対米関係を夢見た革命防衛隊隊員は、今やアメリカの核合意離脱を悔やむ>
「アメリカはイランとの約束を守るはずだと、信じた私たちがバカだった」。そう語ったハサンは80年代の対イラク戦争に参加した、イラン革命防衛隊の元軍人。今の職業は映画監督だ。
「79年のイラン革命からもう十分な歳月が流れた。またアメリカといい関係になれると思っていたのだが」。首都テヘランの国営映画会社にある自室の電話口で、ハサンはそう言って深いため息をついた。
学者として革命防衛隊という組織を研究している筆者は、長年にわたりハサンとその仲間の隊員たちに接触してきた(もちろん全員が匿名を条件に話してくれた。この記事では便宜上、仮名を用いた)。
アメリカとの関係を変えることは可能だし、それは正しいことだと思えた稀有な時期が、こんなふうに終わってしまうのか。彼らの口調には、そもそも甘い期待を抱いたことへの後悔の念がにじみ出ていた。
今から4年前、彼らはハサン・ロウハニ大統領とジャバド・ザリフ外相の路線をめぐって熱い議論を重ねていた。核合意の交渉に欧州諸国とロシア、中国だけでなくアメリカも加えることの是非についてだ。
当時の彼らは、昼食時に集まって意見を交わしていた。ハサンはアメリカとの対話を支持していて、「この合意ができたら、ザリフはモサデクの再来だな」と興奮して語ったこともある。1951~53年にイランの首相だったモハンマド・モサデクは、英米に搾取されていた石油産業の国有化を推進した人物。ただし親米派のクーデターで首相の座を追われている。
あのとき、ガセムはハサンに反論して、こう言っていた。「そして結局は、同じようにアメリカに捨てられるのか」
ガセムは戦争で兄弟2人を失っていた。長兄はイラク軍の爆撃で死亡、末弟は毒ガス攻撃の後遺症で05年に死亡した。今の彼は国営テレビで放送されるドキュメンタリーの監督として名高い。ある作品では、イラン革命後の80年代にアメリカ政府が、いかにイラクへ武器を供与していたかを暴いてみせた。
「アメリカは中東で痛い目に遭ってきた。あんな乱暴なまねはもうできない」。ガセムにそう反論した同僚のアリは、期待を込めてこうも言った。「それに、彼らも学んだはずだ。この地域で政権転覆を目指すのは無駄だという教訓をね。ロウハニとオバマ(米政権)なら、何とか話をまとめるだろう」
筆者は14年に、革命防衛隊の隊員20人以上による議論の場に何度も同席した。当時は慎重ながらも楽観的な見方が多かった。革命防衛隊が核合意を阻止するという欧米メディアの観測に反して、実際に私の接した隊員たちは交渉に期待していた。
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