元CIA諜報員が明かす、ロシアに取り込まれたトランプと日本の命運
ニューズウィーク日本版 / 2018年5月23日 18時30分
ではなぜロシアはそんなことをするのか、何が目標か。私自身もCIAのキャリアの間でロシア側のカウンターパートと何度も接触した経験を持っています。1989年の後もです。冷戦後、ロシアの様々な活動の手順、態度、政策は変わりませんでした。アメリカとの関係ではゼロサムゲームで物事を見る。アメリカにとって悪いことは何でもロシアにとっていいことなのだ、と。バカげていると思うかもしれませんが、彼らはずっとそういう態度を取り続けたのです。
彼らはどういう目的をもっていたのか。彼らは一貫して次のことを追い求め続けました。この3年を振り返ってみても、すべての面で成功していると言えるかと思います。それはアメリカの政治制度の効率性を低下させるということ。ロシアに挑戦する、アメリカの利益を増進する能力を削ぐ、ということ。アメリカの国民の間で政府や政治制度に対する不満を高まらせる、ということ。アメリカの民主主義、民主主義全般の機能を低下させ、逆にロシアのような権威主義、全体主義を成功に導くこと。アメリカをヨーロッパからもNATOからも引き剥がし、EUをはじめとする世界の同盟国から分離させること。第二次大戦後につくられたパックス・アメリカーナなどの国際的規範を損なうこと。逆に、ロシアにとっての影響圏、国際秩序を大きく高めていくこと。とりわけヨーロッパや中東への影響力を高める。そしてすべての面においてロシアは成功したと思います。
何がその結果起きたのか。それが日本の利益ひいては日米関係にどのような影響を及ぼすのか、ということですが、ロシアがさまざまなキャンペーンを繰り広げ、トランプ自身もロシアとは別に自分の立場からいろいろ発言するようになったことがあいまって、結果的にアメリカはますます重商主義、孤立主義、ナショナリズム、一国主義の道を突き進み、これまでの同盟関係を破壊する方向に向かっています。世界は大きく変わりつつあります。主に中国の台頭によって、アメリカはその覇権的地位を失いかけていました。そのスピードはロシアの動きによって劇的に加速しています。おそらく40年ぐらいかけて起きるはずだったことが、たった2年で起きている。日本は1945年以来初めてと言っていいぐらい、中国の台頭に対しても世界秩序の崩壊に対しても一国で、自らの力だけで臨んでいかねばならない。そういう立場に追い込まれていると思います。
次に、なぜ私がこのような見方をするようになったのか。その経緯について説明したいと思います。皆さんにとっても関心のある、ユニークな話だと思います。2年半前のことですが、私はCIAを退職し、その後、物書きの仕事をしたり、教鞭をとったり、大統領選もウォッチしていました。一生を諜報機関に捧げた人間としてトランプの選挙戦に非常に関心を持っていたのですが、いかにトランプが諜報機関の工作員なら絶好の標的になる弱みだらけの人間であるかがすぐに目につき、また仰天しました。諜報機関の人間は人の弱みにつけこみ、それを利用するのが仕事です。トランプのプロフィールは諜報機関員の目に教科書通り、あるいはマンガのように弱みだらけの人間に映ります。これはとんでもない、公に記事を書いて国民に警鐘を鳴らさねばならないと、気付きました。
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