安倍政権は今こそトランプと距離を置く時ではないか - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2018年6月7日 17時15分
<同盟国にまで通商戦争を仕掛けるトランプ大統領。これまで蜜月を演出してきた安倍首相だが、そろそろ袂を分かつときでは>
昔はよく「サミット花道論」という言い方がありました。選挙に負けたり、支持率が低下したりした日本の総理大臣に対してG7サミットが目前に迫っている場合に、サミットという舞台を最後にして「退陣してもらう」という意味合いで使われた言葉です。同時に、サミットが西側自由世界の「仲良しクラブ」だった時代を象徴していると思います。
ところが、今回のシャルルボア・サミット(カナダのケベック州)に関しては、「仲良し」どころではない状況に陥っています。鉄鋼やアルミ、さらには自動車への関税という「通商戦争」を仕掛けているトランプ大統領に対して、開催国カナダのトルドー首相は毅然としてこれを批判していますが、これに対してトランプ大統領は電話会談の中で「1812年の米英戦争」を引き合いに出して罵倒したそうです。
これは、当時英国の植民地だったカナダとアメリカが直接戦った戦争です。結果は引き分けに近いもので、大きく国境線が変わったりはしなかったのですが、アメリカにとっての意味合いは大きいものがありました。それは「アメリカ原住民が巻き込まれ壊滅的なまでに虐殺された」「その虐殺を主導したアンドリュー・ジャクソンがその戦功によって後に大統領になった」「戦時の高揚感から現在の国歌 "The Star-Spangled Banner" が生まれた」という3点です。
この3点はそのまま現在のトランプ政権の文化的背景になっています。つまり「白人至上主義を否定せず」「ジャクソン大統領を尊敬し、その右派ポピュリズムを継承」「国歌斉唱時に人種差別への抗議を行うことに怒ってイーグルスなどNFL(プロ・フットボール)の選手たちと激しく対立」という3点です。ですから「1812年の戦争の精神で」カナダに対抗するというトランプの言葉は、極めて「トランプ的」であり、同時に同盟国とは思えない敵視の姿勢であるとも言えます。
これは異常な事態です。G7の西側同盟国に対して「そこまで」言うということが一つ、そして保護貿易で国内雇用重視という「イメージ」戦略を「そこまで」徹底するということも合わせて、「なり振り構わない」姿勢が見て取れます。もちろんその背景には、ロシア疑惑の捜査が深刻化すること、そして中間選挙で敗北することをおそれての政治的な焦りがあるのだと思います。これは日本にとっても深刻な事態です。
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