集団セックス殺人の犯人にされた、アマンダ・ノックスの今とこれから

ニューズウィーク日本版 / 2018年6月20日 11時15分

<メディアとネットに殺人者の汚名を着せられたアマンダ・ノックスがインタビュー番組のホスト役に>

19世紀アメリカの作家ナサニエル・ホーソーンの名作『緋文字』は、姦通(Adultery)の罪を犯し、そのイニシャル「A」を服に縫い付けられた17世紀の女性ヘスター・プリンの物語。プリンは「さらし台」に立たされ、隣人たちによって非難され辱められた。

現代では「さらし台」はソーシャルメディアに変わり、隣人の数は数百万人に増えた。イタリアの小都市ペルージャに留学していたアメリカ人女性アマンダ・ノックスの場合がそうだ。

彼女は07年に留学生仲間のイギリス人女性メレディス・カーチャーを殺害した罪で、09年に交際相手のイタリア人学生ラファエル・ソレチトと共に有罪判決を受けた。

事件の4日後に2人が逮捕されると、世界中がこのニュースにクギ付けとなり、ノックスは最悪の体験を味わった。見知らぬ人々から魔性の女、殺人者と見なされ、マスメディアとインターネットの暴徒たちは禁錮26年の判決が出るずっと前から彼女を有罪と決め付けた。

ノックスとソレチトは11年の控訴審で無罪とされ、釈放されたノックスは故郷シアトルに戻ったが、中傷がやむことはなかった(その後、判決は二転三転したが、15年に無罪が確定)。

だからノックスは、辱めの意味を身を持って知っている。自身がホスト役を務める5回シリーズのインタビュー番組を『スカーレットレター・リポート』と名付けたのはそのためだ(フェイスブックの動画サービス「ウォッチ」で5月2日からストリーミング配信中)。

この番組ではモデルのアンバー・ローズや、高校時代にアメフト選手にレイプされたデイジー・コールマンなど、メディアや社会から攻撃された経験を持つ女性たちに話を聞いている。

事件をめぐるノックスの回想録はベストセラーになり、16年にはネットフリックスのドキュメンタリー『アマンダ・ノックス』が制作された。ほかにも多くの書籍が出版され、事件を題材にした映画も登場した。自分の番組を持てたのは、間違いなくこうした話題性ゆえだ。

殺人事件の審問後、法廷を出るノックス(08年9月16日) Daniele La Monaca-REUTERS

「#MeToo」が追い風に

ノックスは本誌の取材に対し、どんな質問にも率直に答えた。ガードは固いが、その姿勢はオープンだった。記者と話すのは「神経が疲れる」と、彼女は言う。「相手の意図が分からないから。私を人間として見ているのか、それともサンドバッグ、格好の標的と思っているのか」

事件のトラウマから逃れられたことは1日もない。「(当時)メレディスは21歳、ラファエルは23、私は20。みんなまだ子供だった」。同時に「人生を決定付けた瞬間だった。おかげで私は多くの知識と視点を得た」。



30歳の今も彼女はシアトルに住み、不当な告発の犠牲者のための活動に力を入れている。この場合の告発は、司法だけでなくメディアによる告発も含む。

メディアの執拗な報道には、取材対象のアイデンティティーを?奪する力がある。「私という人間は原形をとどめないほど誇張された。私がレイプゲームの元締めだったなんてバカげてる! 私は闇の女帝扱いされ、世界で最悪の性的倒錯者のように描かれた。そんな証拠は何もなかったのに」

ノックスが番組でインタビューした女性は全員、同じような経験をした。第1回のゲストは、モデルからフェミニズム活動家に転じたローズ。彼女は人気ラッパーのウィズ・カリファと離婚後、ミソジニー(女性蔑視)に基づく非難や中傷の嵐に何カ月もさらされた。

それでもローズは、「女性に不適切な期待を持つ男たちに愛情を込めて」語り掛け、教育することの大切さを説いた。「アンバーは温かくて穏やかで、母親のような存在感があった」と、ノックスは言う。

ノックスは今もミソジニーに平静ではいられない。「他の女性(が言葉の虐待を受けているの)を見ると、ついカッとなる。性的な侮蔑や攻撃を受けたときの気持ちが分かるから」

ノックスが番組のアイデアを思い付いたのは「#MeToo」運動が始まるずっと前。当時は話を聞いてもらうのに苦労した。「冤罪被害者の誰もが直面する壁を私も感じた。虚偽の自白を強制されるのがどういうものか、耐え難いほどの努力を払って説明しなくてはならなかった」

相談した相手はほとんどが男性だった。「なぜ重要な問題なのか、彼らは理解できなかったか、理解しようとしなかった」

だが昨年10月、大物映画プロデューサーのハービー・ワインスティーンをはじめとする権力者の男性によるセクハラが告発され始めると、全てが変わった。突然「女性たちの経験が大切なものとして扱われるようになった。驚きだったし、とても感謝している。ここまで来られるなんて思わなかったから」

彼女の言う「ここまで」は、女性に対する扱いだけでなく、本人の立場の変化も指している。「私は少し前まで、人生で一番大切な数十年を刑務所で過ごすのだと思っていた。やってもいない罪のせいでね」と、ノックスは言う。「あれから10年もたたないうちに、ここまで来られるなんて信じられない」


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。ご登録(無料)はこちらから=>>

[2018.6.12号掲載]
マリア・ブルタジオ

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング