トランプの予測不可能な通商政策は世界もアメリカも貧しくする
ニューズウィーク日本版 / 2018年6月18日 17時0分
カギを握る3つの要件
このシステムが長年うまくいったのは、WTOとその最大の旗振り役であるアメリカなどの主要国が、3つの要件を自国の通商政策に反映させてきたからだ。つまり、加盟国は、
1)予測可能な通商政策を打ち出すことで不確実性を減らし、
2)消費者や企業が長期的な意思決定もしやすい環境を整え、
3)WTO加盟国も非加盟国もはっきり理解できるような、合法的で信頼性のあるルールを示してきた。
アメリカはGATTとWTO両方の発足の立役者であるにもかかわらず、トランプの通商政策はそれらの指針に従わない。彼は現在の自由貿易体制の存続を保証するより、むしろぶち壊すことの方に興味があるようにみえる。しかもことあるごとに、WTOを脱退するかもしれない、と脅しをかけている。
トランプとしては、輸入関税を発動し、それもやると言ったりやらないと言ったりして予測不可能に振る舞い、同盟国さえビジネス上の敵として扱うことで、有利な条件を引き出せると考えているようだ。だがむしろ、これらの戦術は逆効果だという証拠が揃いつつある。
不確実性の種をまく
トランプの政策が生んだ最悪のものは、貿易相手国がアメリカの貿易政策に対していだく不確実性だろう。
鉄鋼とアルミニウムへの追加関税がよい例だ。トランプ政権は3月、鉄鋼に25%、アルミに10%の関税を一律に課すと表明。特に中国を念頭に、対米輸出で政府補助金を支給したりダンピング(不当廉売)を行ったりした国を制裁するためだ、と説明した。
カナダ、EU、メキシコなどの同盟国が一斉に反発すると、トランプ政権はそれらの国を一時的に適用除外にした。だが約2カ月後の5月31日、適用除外を撤回して追加関税の適用に踏み切り、大きな混乱を引き起こした。そのわずか1週間後のG7で、トランプは6カ国とのあらゆる貿易を即座に停止するかもしれないと脅迫。そうかと思えば今度は、すべての国が関税を完全に撤廃するよう提案したりもした。
もう1つ、トランプが不確実性を増やした最近の例が、中国の通信機器大手の中興通訊(ZTE)をめぐる一連の騒動だ。米商務省は2017年3月、イランや北朝鮮に米国製品を違法に輸出したとして、ZTEに11億9000万ドルの罰金の支払いを命じた。さらに今年4月、ZTEが依然として違法な輸出を行っていたとして、同社の主力製品の製造に不可欠な部品の調達先である米企業との取引を7年間禁止する制裁措置を発表。ZTEにとって最も打撃が大きかったのは米半導体大手クアルコムとの取引禁止で、1カ月以内に主力製品の生産停止に追い込まれた。
この記事に関連するニュース
-
米USTR、EUによる中国の医療機器の政府調達調査を「興味深く注視」(米国、EU、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年4月30日 13時30分
-
中国商務部、米国に対中製品の関税引き上げ中止と対中追加関税措置の即時撤廃を促す
Record China / 2024年4月19日 11時50分
-
バイデン米大統領、中国製の鉄鋼など関税3倍に引き上げる姿勢―仏メディア
Record China / 2024年4月18日 17時30分
-
米USTR、中国の海事・物流・造船分野に対する301条調査を開始(米国、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年4月18日 15時10分
-
バイデン米政権、鉄鋼・アルミ、造船産業の保護施策発表、対中関税引き上げやメキシコからの流入阻止へ(米国、中国、メキシコ)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年4月18日 13時10分
ランキング
-
1ロンドン市長選の投票実施 開票は4日、3選目指すカーン氏に「排ガス規制」のアキレス腱
産経ニュース / 2024年5月2日 16時28分
-
2トルコ政府、イスラエルとの輸出入を“全て停止”と発表 「パレスチナにおける人道的な状況がさらに悪化」のため
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年5月3日 9時53分
-
3韓国慰安婦訴訟で追加提訴 日本政府に損害賠償請求
共同通信 / 2024年5月3日 17時6分
-
4「米大学は憎しみと反ユダヤ主義で汚染」 イスラエル大統領
AFPBB News / 2024年5月3日 14時42分
-
5世界初 「月の裏側のサンプル採取」に挑戦 中国の無人月面探査機発射成功
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年5月3日 20時44分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください