中国はなぜ金正恩訪中を速報で伝えたのか?──米中間をうまく泳ぐ金正恩
ニューズウィーク日本版 / 2018年6月20日 16時0分
Q:国際社会にですか?
A:その通りです。国際社会に対して、(朝鮮)半島問題の解決には、絶対に中国を欠かすことはできないということを思い知らせなければなりません。
Q:なるほど!おもしろい!
A:半島の非核化と平和構築のプロセスにおいて、中国なしに問題を解決することなどできないんです!できますか?
Q:それはその通りかもしれませんが、しかしそれが慣例を破って、入国と同時に訪中の事実を公開するという理由にはならないのでは?
A:なります。今こうして、あなた自身、驚いて私に連絡してきたでしょ?世界中がきっと驚いていることでしょう。それだけ彼の訪中にインパクトが増すということになります。
Q:なるほど!たしかに!それはその通りですね。私は「なぜ金正恩が帰国する前に訪中の事実を報道したのか」ということにしか興味はありませんでしたから。
A:ほらね。そこですよ!だから、中国には「一刻も早く国際社会に知らせたい」という気持と「3度目になると新鮮味が薄れるが、慣例を破った報道の仕方をすると、国際社会が一層、関心を強く持つだろう」という思惑の両方があるわけです。
*****
つまり、この元中国政府高官の回答は中国は、朝鮮半島における中国の影響力が低下していることを懸念しているということを示唆しているわけだ。彼との付き合いはもう何十年にもなるが、今日まで彼の口から、このような「弱気な中国」の言葉を聞いたことは一度もない。どれだけ中国がいま焦っているかを如実に表している。
それにしても、金正恩は中国を訪問するだけでなく、12日にもシンガポールを訪問したり、今後はアメリカやロシアを訪問する機会も増えていくだろう。中国とは中朝軍事同盟があるから、こういう特別の配慮を北朝鮮に対してこれまではすることができたが、他の国ではそうはいかない。当たり前のように同時進行で報道するから、金正恩もナマ中継に慣れていかなければならないはずだ。
元中国政府高官も、そのような回答を準備しておけば良かったのに、突然だったので思わず本心を言ってしまったのだろう。気の毒にも思うが、半島情勢が中国抜きで大きく動き始めたことを内心懸念している中国の本音を垣間見ることができたのは、大きな収穫だった。
実際の映像は少しずらして放映
それでも中央テレビ局CCTVは、実際の映像を少しずらして放映した。
たとえば夕方のニュースだが、金正恩が儀仗隊の歓迎を受ける様子を放映しただけで、すぐにボリビアのモラレス大統領の歓迎式典に移り、その後長々と習近平とモラレスの対談を流したので、違和感を覚えていた。すると「ただ今、新しいニュースが入りました」とアナウンサーがモラレスの映像を打ち切り、突然、習近平と金正恩の対談の様子に画面が切り替わったのである。
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