高校新科目「歴史総合」をめぐって
ニューズウィーク日本版 / 2018年8月17日 16時20分
全体の時代区分として目をひくのは、「明治維新」の存在感が大きいのと、一九四五年を歴史の転換点とすることに対する拒絶である。後者に関してはこれまで、日本史はもちろん世界史の教科書も、第二次世界大戦の終了・国際連合の発足・冷戦の始まりに注目して、一九四五年で章を分けるのが普通だった。単元Dで冷戦体制の時代と、冷戦終了後のグローバル化の時代とをまとめて「グローバル化」と概念化するのも、きわめて特異な理解だろう。ただこの点はあまりにも奇妙なので、CとDとの時代区分が教科書で踏襲されることはないと予測される。
しかし、問題なのは前者、「明治維新」が登場する単元Bの(3)節である。「明治維新」を王政復古による新政府の発足のことと捉えるか、より広く、徳川末期の政治運動から近代国家としての制度的確立までの過程と考えるかについては、さまざまに議論がある。だがいずれにせよ、せいぜい二十年ほどに過ぎない一国内の事件が、ここだけ節の題目に挙がっているのは、あまりにも「明治維新」偏重ではないだろうか。Bの(3)が扱う時期に、西洋諸国においてデモクラシーの発展が見られ、日本でも憲法制定と国会開設が実現したことを考えるならば、(3)の題目は「立憲体制と国民国家」――指導要領案の説明文にはこの表現が見える――とすべきではなかったか。
Bの(3)節の「内容の取扱い」にさいして配慮すべき事項を述べた箇所には、「人々の政治的な発言権が拡大し近代民主主義社会の基礎が成立したこと」とある。この指導要領案の歴史観では、世界史的に「近代民主主義」は、十九世紀後半になって「国民国家」の確立の上に成立したことになっており、「18世紀後半以降の欧米の市民革命」も、Bの(3)との関連でとりあげるように指定されている。明治時代に西洋の立憲主義を受容した日本についてはともかく、世界史に関する理解としては、大きな欠陥を含んではいないだろうか。
こうした「国民国家」と「民主主義」との関係づけにもほの見えているのだが、この指導要領案を貫いている歴史の見かたは、徹底した経済中心史観である。たとえば単元Bの(2)の内容で最初に挙げられているのは「18世紀のアジアや日本における生産と流通」であって、欧米における市民社会の確立やアメリカ・フランスの革命ではない。第二次世界大戦の原因として「経済危機」を重視することや、冷戦とグローバル化とを一緒にしてしまうところにも、経済にしか関心がないような気配がある。
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