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高校新科目「歴史総合」をめぐって

ニューズウィーク日本版 / 2018年8月17日 16時20分

この指導要領案の作成にあたって影響力をもったと思われる、中央教育審議会の教育課程部会「高等学校の地歴・公民科科目の在り方に関する特別チーム」の第三回会合(二〇一六年二月十六日)の配布資料には「基軸となる問いに着目した「歴史総合(仮称)」の構成イメージ(たたき台案)」というカラーの図があり、文部科学省のウェブサイトで公開されている(1)。

この図は、「歴史の転換」を理解するための「基軸となる問い」を、分野別に並べて示したものである。そして同時に「歴史への転換の関わりの深さ」を着色の濃淡で示しているのだが、「経済に関する諸問題」がもっとも関わりが深いとされ、政治、国際社会、社会・文化と進むに従って、浅いものと位置づけられている。近代政治原理や市民社会の確立に関する事項が軽視もしくは無視されてしまうのも、この図からすれば当然であった。

【参考記事】文部省教科書『民主主義』と尾高朝雄



もちろん、資本主義の発展や経済のグローバル化が、歴史の動きに大きな影響を与えるのはたしかであろう。だが指導要領案の書きぶりは、もし「国民国家」や「大衆化」も経済的要因を重視して理解するならば、人間生活のほかの諸要素をすべて経済に従属したものと考える、完璧な経済決定史観になってしまう。なぜか明治維新が大好きな唯物史観の持ち主。そんなキャラクターが、文書の背後から浮かびあがってくるような気もする。

「内容の取扱い」について配慮すべき事項のうちには、「客観的かつ公正な資料に基づいて」という一節がある。だがこれは、言葉がぎこちないだけで、実際には「より信頼できる資料に基づいて」というニュアンスを示しているのだと思いたい。歴史のまっとうな学習においては、ある資料の内容が「客観的」か否かについての見解が、常にさまざまな批判にさらされるはずである。複数の情報源のなかから、より信頼できるものを吟味し選びだす作業が、歴史を通じてのメディア・リテラシーの教育という性格ももつだろう。

この「歴史総合」指導要領案の全体においては、過去の歴史についての知識を身につけるだけではなく、「多面的・多角的な考察」や「よりよい社会の実現を視野に課題を主体的に追究、解決しようとする態度を養う」ことが、目標として強調されている。そうであるならば、一つの事件について異なる内容を示す複数の資料を生徒に見せ、どちらがより信頼性が高いと判断できるか、その根拠は何か、といった議論を教室で展開することも重要になるはずである。選択課目の「日本史」「世界史」よりも内容が絞られているから、そうした余裕もできるだろう。

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