日本経済を「復活」させた、リーマン・ショックの衝撃
ニューズウィーク日本版 / 2018年10月2日 17時0分
バブル崩壊と金融問題の規模を考えると、日本は経済的な面でもよくやったのではないか。確かにGDPは低迷したが、日本経済は崩壊しなかった。大量失業が何年も続くこともなかった。
政治的・社会的な面の成果はさらに印象的だった。日本社会の結束は維持され、グローバル化への反発やポピュリスト政治家の台頭も見られなかった。
ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンは14年にこう断言した。「日本はかつて(ああなってはいけないという)教訓話の題材だったが、その他の世界がひどいへまをやらかした後では、ほとんどお手本のように見える」
このコメントについて早稲田大学の若田部昌澄教授(現日銀副総裁)は、アメリカの政治的分断という文脈の中で理解すべきだと指摘し、中年男性の自殺率の急上昇など、日本の長期的な経済停滞がもたらした人的被害を過小評価すべきではないと警告した。
経済成長こそが唯一の道だ
この議論には決定的に重要なポイントが1つある。深刻な金融危機の後には常に、不確実性と想定外の事態が付きまとうということだ。確実な救済策はこれだと自信満々で断言することは、クルーグマンを含め誰にもできない。
最善の策はそもそも金融危機を起こさないことだが、言うは易く行うは難し。破綻当時のリーマン・ブラザーズでチーフグローバルエコノミストを務めていたポール・シェアードの言葉を借りれば、金融危機の可能性は現代金融システムの「バグ」ではない。設計上の「仕様」なのだ。
もっとも、意識改革が必要なのは日本の当局者も欧米当局者と同じだ。残念ながら、日本は組織的なプライドと惰性ゆえに、量的緩和政策の導入で欧米に大きく後れを取った。
12年末の総選挙後に安倍晋三首相が再登板するまで、日本の政策論議は財政・金融タカ派に支配されていた。特に有害だったのが、日本は(世界最大の債権国であるにもかかわらず)「過剰債務」を抱えているという意識だ。
当時は1ドル=80円の円高が日本の製造業を窒息させ、日経平均株価は8000円、有効求人倍率は40年間で最悪レベルにあった。にもかかわらず、議論の中心は財政再建とリフレ政策(金融緩和で人々のインフレ期待を高めてデフレ脱却を図る)の危険性だった。「痛みを伴う構造改革」こそ繁栄への道、というのが当局者の常識だった。
この考え方は金融危機以前、小泉純一郎首相の時代の支配的イデオロギーだった。当時の経済状況は良好に見えたが、内実はお寒い限りだった。大手輸出企業は好調だったが、国内のデフレ基調は根強く残っていた。リーマン・ショックが襲ったとき、国外の成長頼みの実態が残酷なまでに露呈した。
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