サウジを厳しく追及できないイギリスの冷酷なお家事情
ニューズウィーク日本版 / 2018年10月16日 19時20分
同じく2013年から17年の5年間で英国の武器輸出はこれ以前の5年間と比較して37%増加しており、輸出先のトップはサウジアラビア(49%)、これにオマーン(19%)、インドネシア(9・9%)が続いた。
2015年から続いているイエメン内戦にサウジアラビアが軍事介入し、人道上の危機が発生しているが、サウジに対する国際的批判に米英政府は口が重い。
カショギ氏事件の前になるが、イエメンでのサウジの軍事行動を戦争犯罪とする批判に対し、メイ英首相は「英国市民の生活を安全にする」と正当化した。ビジネス面ばかりか、中東情勢の安定化、イスラム系テロを防ぐためにサウジとの連携を維持することを重要視する発言だった。
英国にとっての「国益」
英国にとって、サウジアラビアと良好な関係を築くことが何もよりも重要であることを示した事例は、過去に何度もあった。
筆者が見聞した中で、特に忘れられない事件を紹介したい。
2000年11月、サウジアラビアの首都リヤドで数件の爆破テロ事件が発生した。後に反政府勢力による犯行という見方が定説になっていくのだが、当時サウジで働いていた英国人、カナダ人、ベルギー人らの外国人数人がテロ事件の容疑者として逮捕・投獄された。
その一人となったのがカナダと英国の二重国籍を持つウィリアム・サンプソン氏だ。ほかの容疑者とともに爆発物を仕掛けたとされ、当局に拘束中に取調官によるレイプを含む拷問を受けて、サウジアラビアのテレビで「告白」を強要された。実際には無実であったがサウジの法廷では有罪とされ、死刑判決を受けて2年以上の投獄生活を送った。
2003年から04年にかけて、各国政府の外交努力や「囚人交換」措置によって全員が釈放された。
サンプソン氏と数人の元受刑者は「アムネスティ・インターナショナル」など慈善組織の支援を得て、拷問、不当禁固による損賠賠償やサウジアラビアの内務省を訴える裁判を英国で開始した。2004年、控訴院の判断でいったんは訴える権利を得たが、2006年、最高裁の判断で「国家免責法」(1978年)によって、その権利は与えられずに終わった。
筆者は、2006年にサンプソン氏にあるイベントで話を聞く機会を持った。「自分は拷問を受けたので、『殺人を犯した』と嘘の自供をせざるを得なかった。今でもこの汚名が晴れていない」と悔しさをにじませた。
「私たちがサウジアラビアで拷問を受けていたことを、英政府は知っていたのではないか」と自説を語ったサンプソン氏。「多額の武器取引を反故にしたくなかったら、何もしなかったのではないか」。
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