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サウジを厳しく追及できないイギリスの冷酷なお家事情

ニューズウィーク日本版 / 2018年10月16日 19時20分

2012年、サンプソン氏は心臓発作で亡くなった。

「国益」のため、捜査を終了させた英政府

もう1つ、記憶に残るのが英国最大の防衛関連企業BAEシステムズの賄賂疑惑である。

2006年12月、BAEシステムズによるサウジアラビアへの兵器売却をめぐる汚職疑惑を捜査中だった英重大不正捜査局が捜査を突然打ち切ると発表して、英国内外を驚かせた。



当時問題視されたのは、BAEシステムズのサウジアラビアに対する総額430億ポンドの武器売却契約で、80年代半ばから段階的に契約が続いてきた。

2003年、BAEシステムズが巨額の賄賂を使って契約を取っていたとする疑惑を英ガーディアン紙が報道し、重大捜査局が腰を上げた。

06年、捜査打ち切りの理由について、時のゴールドスミス法務長官は「国益を守るため」と説明した。

ブレア首相(当時)も「サウジアラビアは英国にとって、テロ対策や中東情勢の面から非常に重要な国だ。捜査の進展で悪影響を及ぼすのは、国益に反する」と発言した。

真相は闇の中になった。

しかし、その後、ガーディアンや英BBCなどが調査報道を続け、米英の捜査当局も新たな汚職疑惑を追跡。2010年、米司法省はBAEシステムズに対し海外汚職行為防止法、武器輸出管理法などにかかわるビジネス慣行について虚偽の情報を提供していたとして4億ドルの罰金を科した。

筆者は2006年以来、先のサンプソン氏の件も含めて、「一体、本当の国益と何なのか」という疑問を感じるようになった。

数人の英国人などが「犠牲」になっても、ある国との外交関係が良好にできれば、補って余りあるものなのか。また、賄賂問題の暴露で武器契約が解消されたら、多くの人が仕事を失う。サウジアラビアは今度は他の国からより多くの武器を買うだろう。それが例えば、英国が外交上の敵とみなすロシアになってもいいのだろうか?

いずれにしても、トランプ大統領はカショギ氏の殺害疑惑についてサウジ王室をかばうような発言をするようになっており、現在までに殺害された「証拠」なるものがかなり出てきているように見えるが、真相が明らかにされない可能性は大きい。サウジアラビアとの関係悪化を望まない国があまりにも多いからだ。

[執筆者]
小林恭子(在英ジャーナリスト)
英国、欧州のメディア状況、社会・経済・政治事情を各種媒体に寄稿中。新刊『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)

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